7月に開かれた厚生労働省の審議会は、最低賃金を平均28円引き上げる目安を示した。現行制度となった1978年度以降で過去最大の上げ幅だった (c)朝日新聞社
7月に開かれた厚生労働省の審議会は、最低賃金を平均28円引き上げる目安を示した。現行制度となった1978年度以降で過去最大の上げ幅だった (c)朝日新聞社

 低い賃金で働く人たちが増えている。産業界は引き上げに慎重だが、今年のノーベル経済学賞受賞者は、最低賃金が上がっても雇用は減らないと証明した。普通の暮らしには1500円必要との試算もある──。AERA 2021年11月1日号で、日本の最低賃金について取り上げた。

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 いま関心を呼んでいるのが、最低賃金を1500円に引き上げる運動だ。

 今月31日に投開票される衆院選では、共産党や社民党などが「最低賃金1500円」を公約の一つに掲げた。元々は15年、労働問題に取り組む若者のグループが「1500円」を掲げ、東京・新宿でデモを行ったのがきっかけだ。「路上」からの声は同年代の支持を集め、社会全体に広がった。

 なぜ1500円なのか。静岡県立大学短期大学部の中澤秀一准教授(社会保障論)は、次のように説明する。

「憲法が保障する健康で文化的な最低限度の生活、すなわち『普通の暮らし』を営むために必要な額だからです」

 中澤氏は15年から、普通の暮らしを実現するための「最低生計費」を、労働組合と協力して全国調査している。ワンルームの賃貸マンション(25平方メートル)に住む一人暮らしの25歳男性を対象に、生活実態や持ち物の数量を調べ、必要な費用を積み上げた。

 その結果、最低生計費は全国どこも月24万~26万円(税・社会保険料込み)となった。法定労働時間(月173・8時間)で換算すると、時給1400~1500円ほどになった。お盆や年末年始に休みが取れることを前提に、月150時間の労働時間で換算すると、時給1600~1700円ほどになる。これを受け、最低賃金は「1500円以上が必要」という。

 さらに、中澤氏は「どこに住んでも1500円以上は必要です」と強調する。いま最低賃金が最も高いのは東京の1041円で、最低は高知と沖縄の820円だ。その差は221円あり、年約46万円の違いとなる。この差をなくすことが大切と説く。なぜか。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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