10年ぶりに首都圏を襲った強い地震は、各地に被害を及ぼした。鉄道が止まり、JR渋谷駅前はタクシーを待つ人たちであふれた(c)朝日新聞社
10年ぶりに首都圏を襲った強い地震は、各地に被害を及ぼした。鉄道が止まり、JR渋谷駅前はタクシーを待つ人たちであふれた(c)朝日新聞社

 夜の首都圏を強い揺れが襲った。帰宅難民に漏水、列車も脱輪……。東京の脆さが浮き彫りになった。専門家たちはどう見るのか。AERA 2021年10月25日号から。

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「2時間歩いて帰りましたよ」

 都内に住む会社員の男性(42)は嘆息する。

 7日午後10時41分ごろ、千葉県北西部を震源とする地震が発生し、東京や埼玉など首都圏で最大震度5強を観測した。1週間前に緊急事態宣言が解除されたばかり。仕事や食事を終えて帰る人たちの足を直撃した。

 男性もその一人。品川で地震に遭遇した。電車が止まったのでタクシーで帰ろうとしたが、駅前の乗り場は長蛇の列。近くのホテルも予約でいっぱいであきらめた。仕方なく、大田区の自宅まで歩いて帰った。家に着いたのは深夜2時を過ぎていた。

「東日本大震災を思い出しました。あの時も歩いて帰ったので」

 気象庁によると、東京23区で震度5強以上を観測するのは、2011年3月11日の東日本大震災以来10年ぶり。幸いにして津波は起きなかったが、人口と産業が集中した大都市の脆弱(ぜいじゃく)さを改めて浮き彫りにした。

「東日本大震災を経験して国、自治体、企業が様々な対策を取ってきました。本来なら今回の地震規模であれば、帰宅困難者が困窮しない対応ができたはずです。一斉帰宅抑制策が不十分だったといわざるを得ません」

 と指摘するのは、防災・危機管理アドバイザーで「防災システム研究所」(東京)の山村武彦所長だ。

 東京都は、帰宅困難者を受け入れる都立の一時滞在施設を232カ所用意している。だが今回、開設されたのは足立区、荒川区、港区の3カ所だけだった。

■最悪の手前を想定せず

 山村所長によると、都の一時滞在施設のマニュアルは、震度6強以上の首都直下地震を想定してつくられている。だが、今回は最大震度5強だったため、関係者たちが緊急性を感じなかったのではないかとみる。

「最悪の場合のマニュアルはできていても、その手前の、今回のような規模が比較的小さな地震に対する想定ができていなかったのだと思います」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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