ルーマニアの衝撃的な事件を追った映画「コレクティブ 国家の嘘」。AERA 2021年10月11日号に掲載された記事では、米アカデミー賞2部門にノミネートを果たした注目作の監督に、事件の闇について聞いた。
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2015年、ルーマニア・ブカレストのクラブ「コレクティブ」で起こった火災。27人が死亡、180人の重軽傷者を出す大惨事となった。当時、現地に住んでいたアレクサンダー・ナナウ監督(42)は事件を衝撃とともに受け止めたと話す。
「知人を含む数人が偶然、クラブで撮影していたのです。残念ながら亡くなった人もいます」
映画の冒頭にある、火災の瞬間を捉えた生々しい映像は、その一人が残したものだという。
■人間性のなさに愕然
さらに事件は火災だけで終わらなかった。一命を取り留めたはずの入院患者が、病院で次々に亡くなった。政府の公式発表に不審を感じた監督は、同じ思いを持つガゼタ・スポルトゥリロル紙のトロンタン記者と、彼の取材チームに密着しはじめる。
「最初は撮影を断られたんです。自分たちや告発者たちを守る意味もあったと思います。最終的に信頼してもらい、一緒に仕事をすることになりました」
“観察型ドキュメンタリー”の手法をとる監督は、彼らの邪魔をしないよう撮影を続けた。やがて衝撃の事実が暴かれる。政府や病院理事長らと癒着した製薬会社によって、全国の病院に薄められた消毒薬が納入されていたのだ。患者たちは院内感染で亡くなっていた。
「『こんなにも人間性がない人たちが存在するのか!』とショックを受けました。医師や政治家たちが、金のためにこれほどまでに人の命をなんとも思わないとは、想像もできなかった」
本作のすごさは告発だけに留まらない。事件が明るみに出て保健省の大臣が辞任。そこから視点は、変革を試みる若き新任大臣へとスイッチしていく。
「私は物事をみるときに、反対側のことも気になります。私のような一般市民が、ある日大臣になって権力を手にした時、腐敗や圧力にどのくらい抗えるのか。新大臣を通して見てみたい、という思いがあったのです」