蕨市の古い木造家屋で、家族5人で暮らすクルド人一家。「家族みんな、一緒にいる時が一番幸せ」と夫婦は声をそろえた(photo:横関一浩)
蕨市の古い木造家屋で、家族5人で暮らすクルド人一家。「家族みんな、一緒にいる時が一番幸せ」と夫婦は声をそろえた(photo:横関一浩)

 日本政府が8月、サッカーのミャンマー代表選手を難民認定したことは記憶に新しい。だが、日本で難民認定されることは簡単なことではない。AERA 2021年10月11日号は、難民認定を待つ、あるクルド人一家を取材した。

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 いつ入管に収容されるか。そう考えると、不安と恐怖で押しつぶされそうになる。

「毎日、すごい心配」

 埼玉県南部の蕨市。この街の古い木造家屋で、家族5人で暮らすクルド人の男性(30代)は心情を吐露する。

「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人。トルコやイラク、シリアなど中東地域に暮らす。推定約3千万人。独自の言語や文化を持つ一方、少数民族としてどの国でも差別と弾圧を受けてきた。迫害を恐れた人々が、世界中に散らばる。

 トルコで生まれた男性も、職業的・精神的な差別を受けてきた。親戚が理由もなく逮捕され、釈放されたが廃人となって亡くなったこともあった。救いを求めた先が、日本だった。

 日本にはクルド人のコミュニティーがあると、インターネットで知ったのが大きな理由だ。数年前、妻(20代)と幼い子ども2人と来日した。

■ありふれた日常を望む

 だが、到着した成田空港で入国を拒否され、帰国を拒むと家族別々に3カ月近く入管施設に収容された。収容中、「蕨に行けばクルド人が多く、仕事もある」と聞き、入管を出るとこの地に来た。ありふれた日常を送れると思っていた。が、待っていたのは見えない「壁」だった。

「何でも大変、何もできない。どこにも行けない」

 日本で生まれた子ども1人を含め、一家5人全員が在留資格のない「仮放免」の状態だ。就労はできず、公的な医療保険にも入れず、県外への移動は原則禁止。住民票がないので、新型コロナの経済対策として国からの1人10万円の特別定額給付金も受け取れなかった。

 一家の暮らしは、在留資格を持つ親族の援助に頼らざるを得ず、逼迫(ひっぱく)している。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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