
──総裁選に立候補している4人についてどう見ていますか?
率直に申し上げると、4人の総裁候補の政策があまりにもバラバラで、自民党という政党は権力維持以外に何をアイデンティティーとしているのか理解に苦しみます。例えば経済政策ですが、岸田文雄氏は「新自由主義からの脱却」と言い、高市早苗氏は「アベノミクスの継承」を前面に打ち出しています。河野氏の経済政策はどっちつかずです。野田聖子氏は「教育・子どもへの投資が最大の成長戦略」です。それぞれ個人の考え方なので、それが悪いとは申しません。しかし、岸田氏は前政調会長で自民党としての経済政策には、一定の責任がある立場です。河野氏は現役の閣僚です。これほどまでに各候補の経済政策がバラバラだということは、じゃあ、安倍政権以降に自民党が推し進めてきたアベノミクスによって生まれた格差と分断は、いったい誰の責任なのか、ということになります。
■自民党にできない政策
──自民党政権下では首相が代わっても、絶対に実現できないことがあると指摘しています。
アベノミクスと同時に自民党政治を象徴するのが「選択的夫婦別姓」と「LGBT平等法」を否定し続けているということです。これらの課題に対する立場も4者4様です。しかし、結果として安倍・菅政権の9年間は進むどころか後退しました。各議員の政治的立ち位置があまりにもバラバラで、党内一致できないのです。LGBT平等法についても、国際的な潮流とはかけ離れた議論しかできず、五輪の年にもかかわらずまとまりませんでした。一部の自民党議員が超党派でこれを法律として国会に提出しようとしましたが、最後の関門である総務会で見送られました。
世界では当たり前となっている性別や国籍などあらゆる「差別」を法律で禁止すると明文化することも自民党政権ではできないでしょう。
──原発に関する立ち位置も、4候補者ですら異なります。
誰とは言いませんが、新しい原発の開発、研究を進めるという総裁候補がいる一方で、どこかで原発は無くなるのだから、一定の再稼働は仕方がないと自らの「原発ゼロ」という前言を翻した候補者までいます。原発に関しては自民党が政権を握る限り、絶対に無くすことはできません。これも選択的夫婦別姓、LGBT平等法と同様です。政策志向が一致しない自民党を「多様性がある」「懐が深い」とメディアは持ち上げてきました。野党が同じことをすれば「バラバラだ」と批判されます。