自宅隣の野菜畑で作業中の岩間さん(写真左)「2拠点居住で元気を取り戻せました」と話す赤星さん(撮影/今村拓馬)
自宅隣の野菜畑で作業中の岩間さん(写真左)「2拠点居住で元気を取り戻せました」と話す赤星さん(撮影/今村拓馬)

 千葉県匝瑳(そうさ)市に約3年前に移住した高坂勝(こうさか まさる)さん(51)はダウンシフターだ。ダウンシフターとは、減収を前提に生活を見直し、自分にとって意義のある暮らし方を実現する人たちのこと。大手百貨店を30歳で退職し、居酒屋勤務を経て、移住後は市内の田んぼで都市生活者に無農薬米の栽培体験を提供するNPO法人(SOSA Project)の理事や、自分の生活を軸としたスローライフ論を教える大学の非常勤講師などで収入を得ている。そんな彼に影響されて千葉県の「チョイ田舎」に移住し、暮らしを見直す人たちもいる。AERA 2021年9月27日号から。

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 平日は神奈川県の自宅、週末は匝瑳市という2拠点生活で、仕事のストレスが心身に大きなダメージを与えていることに気づいた人もいる。

 非正規の公務員として働く赤星波(なみ)さん(53)の匝瑳での住まいは、交際中の岩間公伸(きみのぶ)さん(57)が暮らす築49年の3DKの木造住宅だ。約500平方メートルの畑付きで家賃は1万円。岩間さんはデザイナーで、高坂さんとの出会いをきっかけに千葉県船橋市から移住した。地域の会報紙の制作や、庭師仕事などで生計を立てている。

 赤星さんは生活の変化をこう話す。

「平日はPCと向き合う距離30センチの世界ですが、高い建物がない匝瑳に来ると田畑や山をぐるりと見渡せます。遠近感がまるで違う世界を知れたことで、今まで気にしなかった都市生活への違和感がふくらんでいきました」

 赤星さんが高坂さんらが運営する田んぼで米作りを始めたのは3年前。その頃に岩間さんとの交際が始まり、2拠点生活を選択した。のどかな匝瑳から神奈川へ戻る途中、山肌が無造作に削られて林立する分譲住宅や、無機的な高層ビル群への嫌悪感がふくらんだ。

 職場ではPCの前に座りっぱなしで目薬が手放せず、疲れやすいのは加齢のせいかなと長い間思い込んでいた。

「2拠点生活を始めた当初は1泊、最近は2泊と畑仕事の日数を増やすことで少しずつ元気になっていきました。体力があって元気だった頃の自分に戻りつつあります」

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