──明石家さんまさんにも背中を押されたそうですね。

「なぜ歌わないの?」「やれよ」と言われるたびに、「いやいや、タイミングがあったら」と、ずっとかわしていたんです。でも、さんまさんの「まさしくオールドルーキーやんけ」の言葉はかわせなかった。「オールドルーキーかぁ。そのモチベーション、いいなぁ」って、みごとに当たってしまって。

──その気持ちはアルバム制作にも表れたのでしょうか。

 ですね。自分の物差しから見た木村拓哉というより、支えてくれる側から見た「拓哉ならこれでしょ」という曲を提供していただいたので、皆さんが思う等身大の木村拓哉の音になった。「これが今の俺かぁ」と理解しながらアルバムを作るのは楽しかったですね、やっぱり。

■好きなものは好き

──アルバムにもラジオ番組にもタイトルに「Flow」の言葉が入っています。サーフィンを愛する木村さんらしい言葉ですが、「Flow」に込めた思いは?

「Flow」は、絶え間なく流れて循環するって意味なんです。フットワークよくできないと、やっぱり濁るじゃないですか。自分がそうなったらまわりの方によくないだろうし、自分にとっても一番苦手なこと。海の上で、流れに乗りながらフローイングできているというのは、その場その瞬間、しっかりと立っていないとできないことでもあるし。

 その現実感も大切で、虚像では成り立たない。絶対に僕は虚像ではないし、嫌なものは嫌、好きなものは好きっていうリアルな感覚、そういう嘘のない感じが、うん、いいんです。

(ライター・角田奈穂子)

AERA 2021年9月20日号