小笠原治(おがさはら・おさむ、左):1971年生まれ、京都市出身。50歳。さくらインターネットの創業メンバー(現フェロー)。投資会社ABBALab代表。京都芸術大学教授も務める/孫泰蔵(そん・たいぞう)/1972年生まれ、佐賀県鳥栖市出身。48歳。ガンホー・オンライン・エンターテイメントの創業メンバー。投資会社Mistletoe(ミスルトウ)代表(写真:本人提供)
小笠原治(おがさはら・おさむ、左):1971年生まれ、京都市出身。50歳。さくらインターネットの創業メンバー(現フェロー)。投資会社ABBALab代表。京都芸術大学教授も務める/孫泰蔵(そん・たいぞう)/1972年生まれ、佐賀県鳥栖市出身。48歳。ガンホー・オンライン・エンターテイメントの創業メンバー。投資会社Mistletoe(ミスルトウ)代表(写真:本人提供)

 かつての起業家が「意思ある投資家」として、次世代の起業家を育てる。そんな人たちを追った短期集中連載「起業は巡る」。第1シリーズ最終回は、エンジェル投資家・小笠原治(50)と孫泰蔵(48)の対談。AERA 2021年9月20日号の記事の2回目。

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──かつて孫さんの兄・正義さんに1億6千万円投資したシャープ副社長の佐々木正さんみたいなすごい人もいました。

孫:大西さんが『ロケット・ササキ』(新潮社)で書かれてますよね。佐々木さんはすごい人です。あの頃の兄のピッチ(事業計画のプレゼンテーション)なんて、今聞いたら荒唐無稽もいいところですから。亡くなるちょっと前にお会いしたんですが、「お前ら、どんどんやれえ」みたいな最高に面白い方でした。あんな人は後にも先にもいません。

──「お目目キラキラ」の人にホイホイお金を渡していたら、ただの「お金配りおじさん」になってしまいませんか。

小笠原:多分、そうはなりません。例えば今回の連載で紹介してもらったORPHEの菊川くん。最初はバッシュ(バスケットシューズ)にLEDを巻いて「これがロックだあ」とやってきた。その彼が今は「スマートシューズで健康な人を増やしたい」「一人でも多く雇用を生み出したい」と言っています。彼らはビジネスを通じて、すごいスピードで成長するんです。物心ついた時から日本がダメでしたから、親世代のような「日本スゴイ」の幻想を持っていない。ダメな日本が前提で「ほんの少しでも良くできないか」という強い動機を持っています。

欲望のベクトルが変化

「成功したい」という欲望のベクトルが「自分が金持ちになること」から「世の中を良くすること」に変わってきていて。その気概が面白く、魅力的なんです。つまらないことでは失敗しない雰囲気を持っています。自分が10代、20代の時、社会のことなんてこれっぽっちも考えていなかった。日本でも新しい文化が生まれているんだと。

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