2021年8月2日/1310日目に301座目の利尻岳山頂へゴール(写真:ハタケスタジオ/本人提供)
2021年8月2日/1310日目に301座目の利尻岳山頂へゴール(写真:ハタケスタジオ/本人提供)

 日本列島を南から北まで。山と山をつないで縦断した男がいる。8年にわたる旅の軌跡を、アドベンチャーレーサーの田中陽希さんに聞いた。AERA2021年9月20日号の記事を紹介する。

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 スタートから3年7カ月。最初の挑戦から数えれば足掛け8年に及ぶ長い長い旅だった。「日本三百名山ひと筆書き」に挑んでいた田中陽希さん(38)が8月2日、ゴールとなる北海道の利尻岳山頂に立った。

 旅を終えて3週間ほどたった8月下旬。取材でどんな旅だったかを問うと、田中さんは万感を込めてつぶやいた。

「長かったなぁ。よくここまで来られたというか。ずっと気持ちを切らさずに旅のなかに身を置き続けるのも『長かった』し、新型コロナの感染拡大で、不安のなか耐えながら待つのも『長かった』。言葉で言うと一言だけど、いろいろな思いを込めての『長かった』です」

 ゴールの数日前から、これまでの情景が走馬灯のように浮かんでいたという。

 この旅は「日本三百名山」に選ばれた名峰と、「二百名山」に選ばれながら三百名山には含まれない荒沢岳の計301座を人力でつなぎながら、ひと続きの旅として登頂する。2014年の「百名山ひと筆書き」、15年の「二百名山ひと筆書き」に続く集大成としてのチャレンジで、18年1月1日に鹿児島県の屋久島をスタートした。

 当初は2年以内にゴールする計画だったが、初年度から大きく遅れた。8月には右手を骨折し、ギプスで固定しながら登山を続けた。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した昨年4月からは、3カ月にわたって山形県酒田市の空き家で生活。3カ月の「行動自粛」によって計画はさらに遅れ、冬を迎えた北海道で約4カ月の待機も強いられた。

 計画を1年半以上オーバーしたが、それは悔いなく歩き続けた結果だと、田中さんは言う。

■出会いをかみしめる

「百名山、二百名山のときは、悪天候でもとにかく次の山を目指して駆け抜けました。それはそれで充実していたけれど、今回は集大成として、ひとつひとつの山にゆっくり向き合いながら、地元の人との出会いも大切に、かみしめながら旅をしようと思ったんです」

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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