菅政権のコロナ対策も安倍政権同様、後手に回り続けた。感染が少し収まると、景気対策として「Go Toキャンペーン」を始めた。感染は再拡大したが、東京五輪・パラリンピックの開催は強行。菅首相は開催の意義や理由、感染対策などについて国民が納得できる説明をすることはなかった。菅氏には国民と目線を合わせて説得する術がないことが露呈した。

 説明不足の典型が8月初旬に打ち出された感染者の入院制限だ。菅首相は感染の急拡大を受けて、中等症や軽症の感染者に対して、それまでの原則入院という方針を変更。自宅療養とすることを突然、表明して強い反発を受けた。こうした危機管理の中では・まず見通しの甘さを率直に認めて反省の姿勢を示す・政府にできることとして、臨時の医療施設の設置や医師会への協力要請などを打ち出す・そのうえで国民に向かって、自宅療養が必要になることがあるかもしれないが、我慢してほしいと呼びかける──という手順が不可欠なのに自宅療養だけが求められた。

 感染症の全体像を把握し、政府や自治体にできることを明確にしたうえで国民に我慢を求める。危機の指導者に必要な説明能力を兼ね備えていないことが明らかになったのである。(政治ジャーナリスト・星浩)

AERA 2021年9月20日号より抜粋