岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科教授。ニューヨーク、北京で医療勤務後、2004年帰国。08年から現職(撮影/楠本涼)
岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科教授。ニューヨーク、北京で医療勤務後、2004年帰国。08年から現職(撮影/楠本涼)

 日本各地で医療崩壊が起こっているが、少しずつワクチン接種が進んでいる。私たちが知っておくべきこと、これから見据えていくべきことは何か。岩田健太郎医師に話を聞いた。

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――各地で“医療崩壊”が起きている。新型コロナウイルスに感染しているが入院できずに自宅で療養したり待機したりしている人は、9月1日時点で13万人あまり。一家全員が感染して自宅療養という家庭もある。病床の逼迫を改善するために、1千床の「野戦病院」を作ると発表した大阪府のような自治体も出てきた。

■体制強化は感染者増に追いつかない

 昨春からずっと指摘されてきたように、中期的には国内の医療体制を強化し、受け入れ能力を増強する必要があります。

 しかし、目の前にある医療崩壊の危機から脱するには、まずはとにかく感染者数を減らすしかありません。大雨による雨漏りを、一時しのぎで洗面器や風呂桶に受けることはできます。しかし、それはあくまで弥縫策であり、雨が降り続くかぎり、いずれはあふれてしまいます。

 感染も同じで、いくら受け入れ病床を増やしても、コロナ感染者数が多いままでは、いずれはあふれてしまうのです。

 野戦病院を作れ、という声も大きいですが、病院だけ作っても、医療従事者がいなければ治療はできません。そして、たとえコロナに対応する医療従事者を頑張って増やしても、1日に何回も分裂して倍々ゲームのように指数関数的に増えていくウイルスの増殖速度には、まったく追いつきません。全国の3分の2以上の都道府県で感染爆発が起きているいま、新型コロナウイルスの治療ができる医療従事者に余裕のあるところはほとんどないと思います。

■最も苦しむのは患者

 昨春からずっと指摘されてきた問題点を、1年半経っても改善していない政府や自治体の責任は、極めて重い。
 
 医療崩壊を防いでほしいとは、多くの医療従事者が繰り返し発信してきたメッセージです。でも、現実問題として、医療が崩壊して苦しむのは、医療者ではない。確かに我々は休む時間もないほど忙しくなりますが、コロナ病床が満床になれば、それ以上の患者は診ることができない。

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入院までに時間がかかることの意味