開会式で聖火が聖火台にともされると、花火が打ち上げられた(c)朝日新聞社
開会式で聖火が聖火台にともされると、花火が打ち上げられた(c)朝日新聞社

 過去最多の254人の日本選手が出場した東京パラリンピックが9月5日に閉幕する。大会直前にアーチェリー日本代表の一人が出場を辞退したが、この異例な事態がなぜ起きたか事実関係はいまだにはっきりしていない。

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 日本身体障害者アーチェリー連盟が選手の出場辞退を文書で発表したのは、開幕3日前の8月21日。選手名は明かされなかったが、日本パラリンピック委員会は翌22日、長谷川貴大選手(32)の名前を文書で発表した。

 長谷川選手は千葉県出身で、小学3年生のときに小児がんを発症。右足の太ももを切断し、義足を使用している。早稲田大学1年のとき、2008年北京パラリンピックに出場し、団体で4位になった。大学卒業後に日本テレビに入社。仕事の合間や休日にトレーニングを積み、今年3月の代表選考会で3大会ぶりにパラリンピック代表に内定した。

 連盟によると、長谷川選手は7月下旬に「所有者に無断で競技者の複数台の弓に触れる」行為をしたという。重大なコンプライアンス違反だとして、連盟はコンプライアンス委員会を立ち上げ、本人や関係者に聞き取り調査などを実施した。その過程で本人から出場辞退の申し出があり、日本パラリンピック委員会などと対応を協議して開幕3日前での発表となった。大会直前だったこともあり、代わりの選手を選出できなかった。

 長谷川選手は勤務する日本テレビを通じて、次のような謝罪コメントを出した。

「他の選手の皆様、また連盟の方々にご迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ありませんでした。今回の件に関して深く受け止めており、応援していただいた関係各位のご期待を裏切ってしまい反省しております」

 全日本アーチェリー連盟には「許可なく他人の弓具に触れてはならない」という安全規定がある。なぜ許可なく他の選手の弓具に触ってはいけないのか。

 アーチェリーは70メートル、もしくは50メートルの先の的を狙う競技で、選手たちは弓を細かく調整して矢を放つ。手元が1ミリずれると、70メートル先では10センチ近くのずれとなり、2~3点の違いになってしまう。調整が知らぬ間に変わっていると、場合によってはけがや暴発につながる。あるアーチェリー経験者は「他人が触れた弓は信頼できない」と話す。

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