イラスト:古村耀子(AERA 2021年9月6日号より)
イラスト:古村耀子(AERA 2021年9月6日号より)
たにぐち・としぶみ/千葉大学医学部附属病院(感染制御部・感染症内科)講師。感染症専門医。米国内科専門医、米国感染症専門医(写真=本人提供)
たにぐち・としぶみ/千葉大学医学部附属病院(感染制御部・感染症内科)講師。感染症専門医。米国内科専門医、米国感染症専門医(写真=本人提供)
はやかわ・さとし/日本大学医学部教授。産婦人科医、感染免疫研究者。日本産婦人科感染症学会副理事長(広報担当 写真=本人提供)
はやかわ・さとし/日本大学医学部教授。産婦人科医、感染免疫研究者。日本産婦人科感染症学会副理事長(広報担当 写真=本人提供)

 ワクチンを打ったら妊娠しなくなる──。まことしやかにそんな怪情報が、ネットを中心に 出回っている。AERA 2021年9月6日号で、感染症の専門医がひとつずつ検証した。

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「有効な治療薬がまだない現状では、ワクチンについての誤情報を信じて接種をためらう方に誤りの理由を説明し、正確な情報を届けること。その対策なしに、コロナは収束に近づきません」

 こう話すのは、千葉大学医学部附属病院の感染症医、谷口俊文さんだ。新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する情報を発信する「こびナビ」で幹事を務める。こびナビには国内外の医師30人が参加。接種への様々な不安を取り除くため、公式サイトにワクチンに関するQ&Aや、接種した人の体験談を掲載するプロジェクトだ。

 きっかけは今年1月、日本でも医療従事者へのワクチン接種が始まる前に、いくつかの病院で行われた接種希望調査だった。その結果に、谷口医師は危機感を持ったという。

「50%ほどしか希望者がいなかったんです。医療従事者が打たないものを、一般の方が安心して打てません」

 ワクチンに関するさまざまなデマが、多くの人の不安をかきたてる状況もあった。「遺伝情報が書き換えられる」「不妊になる」、なかには「ワクチンを打つと体内にチップが埋め込まれて監視される」といった荒唐無稽なものなど、次々と誤情報は出てきた。

「医師や看護師向けに、そして次に接種が予定されていた高齢者の方にも、ワクチンの有効性と安全性をわかりやすく説明できるものをと、今年2月に始めました」(谷口医師)

 いま、どんな誤情報が出回り、何が間違っているのか。谷口医師と、日本大学医学部教授(感染免疫学)で日本産婦人科感染症学会の広報理事を務める早川智医師に聞いた。さっそく検証していこう。

■不妊になったり流産したり胎児に悪影響がある

 米ファイザーや米モデルナのワクチンは「mRNAワクチン」と呼ばれるタイプ。ワクチンがターゲットとする「スパイクたんぱく質(コロナウイルスの表面にある突起状のたんぱく質)」の形と、胎盤の形成で重要な「シンシチン‐1」というたんぱく質の構造が似ているため、接種によってできる抗体がこのたんぱく質を攻撃し、その影響で不妊になったり流産したりする。そんな情報がネットで広がっている。

 それに対し、谷口医師は「誤情報です」と断言する。「米国では14万人の妊婦がmRNAワクチンを打っていますが、通常の妊娠の経過と、流産の発生率などがまったく変わらないという結果も出ている。大方の見方として影響はないと考えられています」

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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