はしもと・まりこ/1981年生まれ、三重県鈴鹿市出身。39歳(撮影/写真部・東川哲也)
はしもと・まりこ/1981年生まれ、三重県鈴鹿市出身。39歳(撮影/写真部・東川哲也)
東京・渋谷の高層ビルに入る本社。受付の先には大きなフリースペースが広がり、いろんなところに腰掛けて仕事や雑談ができる(撮影/写真部・東川哲也)
東京・渋谷の高層ビルに入る本社。受付の先には大きなフリースペースが広がり、いろんなところに腰掛けて仕事や雑談ができる(撮影/写真部・東川哲也)

 かつての起業家が「意思ある投資家」として、次世代の起業家を育てる。そんな循環の中心にいる人々に迫る短期集中連載。第1シリーズの第3回は、企業の受付から起業家に転身した、ベンチャー企業RECEPTIONIST(レセプショニスト)のCEO・橋本真理子(39)だ。AERA 2021年9月6日号の記事の1回目。

【写真】オフィスで談笑する橋本さん。渋谷の高層ビルに入る本社には大きなフリースペースが…

*  *  *

 東京・渋谷のランドマーク、セルリアンタワー11階。「日本を代表する総合インターネットグループへ GMO」と書かれた円筒型の受付カウンターの中には、常時3人が待機する。

「かっこいいなあ」

 その一人、橋本真里子はテーブルの下に忍ばせたスマホの画面をこっそりのぞき込んだ。仕事中にスマホを見ていて良いわけがない。この道10年の彼女が知らないはずもないが、どうしても衝動を抑えられなかった。

 橋本が見ていたのは、ベンチャー育成の一大イベント「IVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)」の目玉企画「ローンチパッド(発射台)」。予選を勝ち抜いた起業家の予備軍が、ベンチャー投資家(VC)の前でピッチ(ビジネスのプレゼンテーション)を行う。優秀者は出資を受けられる。

 腕に覚えのある起業家たちが「我こそは」とピッチを繰り広げる。その感想を後に橋本は自分のブログにこう記している。

<受付嬢では参加が許されぬイベント。(中略)出ている人みんなかっこいい…いつか出たい…自分の言葉で自分たちのサービスを伝えるってすごいなーってずーーっと思っていました>

■近くて遠い起業家たち

 それは橋本にとって近くて遠い世界だった。大学卒業から複数のIT企業で受付をしてきた橋本は、多くの業界関係者と顔見知りになった。ローンチパッドに登場する起業家も、何人かは知り合いだ。審査しているVCにも知己が少なくない。

「マリちゃん、週末空いてる? お客さんとのゴルフ、付き合ってくれないかな」
「取引先と会食なんだけど、俺たちだけだと間がもたなくて」

次のページ