菊川裕也(きくかわ・ゆうや)/1985年生まれ、鳥取県出身。36歳(撮影/写真部・東川哲也)
菊川裕也(きくかわ・ゆうや)/1985年生まれ、鳥取県出身。36歳(撮影/写真部・東川哲也)
スマートシューズに期待をかけるアシックス社長の廣田康人(右)。東京・原宿の「ASICS EXPERIENCE TOKYO」では9月8日まで体験できる(会場前で登録)(撮影/写真部・東川哲也)
スマートシューズに期待をかけるアシックス社長の廣田康人(右)。東京・原宿の「ASICS EXPERIENCE TOKYO」では9月8日まで体験できる(会場前で登録)(撮影/写真部・東川哲也)

 かつての起業家が「意思ある投資家」として、次世代の起業家を育てる。そんな循環の中心にいる人々に迫る短期集中連載。第1シリーズの第2回は、画期的なスマートシューズの開発者で、ベンチャー企業ORPHE(オルフェ)の創業者・菊川裕也(36)だ。AERA 2021年8月30日号の記事の1回目。

【写真】アシックス社長の廣田康人さんと話す菊川さん

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 2020年1月7日、米ラスベガスのコンベンション・アンド・ワールド・トレード・センターで「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」が始まった。各国の電機や電子部品メーカー4500社が集まり、17万5千人が訪れる世界最大の家電見本市だ。

 広大な会場の片隅に、場違いなブースがあった。スポーツ用品大手のアシックスだ。「ランニングシューズのアシックスがなぜここに?」。来場者は怪訝(けげん)な顔でブースをのぞいたが、展示されたデモを見て「なるほど」と納得した。

 そこには電動のランニングマシンが置かれ、巨大スクリーンにいくつかの数字が映し出されていた。走る人のピッチに合わせて刻々と変化する値は、一歩ごとの着地パターンや歩幅を表す。90秒ほど走ると、左右どちらに負荷がかかっているか、蹴り足の角度は適切かなどを示すグラフが表示される。ランナーの走り方が可視化されるのだ。

■コーチになるシューズ

 仕掛けはランナーが履いている靴にある。「エボライドオルフェ」と名付けられたシューズのソールにはセンサーと通信機が埋め込まれ、足の動きをネット経由でスマホに送る。専用アプリが走り方を解析し、フォームの改善方法などを教えてくれる。キャッチコピーは「シューズが、コーチになる。」。

「イッツ・アメイジング」

 ラスベガスに乗り込んだアシックス社長の廣田康人は、目を丸くする来場者を満足げに見守っていた。50歳からマラソンを始めた廣田は、アシックス会長の尾山基に請われ、三菱商事の代表取締役常務から転じた変わり種だ。「アシックスを変えてほしい」。CESの出展は、尾山にそう頼まれた廣田が仕掛けた新しいチャレンジだった。

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