「エリさんの言う通りだと思います」「もっと頑張ります」
ポジティブな返事がほとんどだったが、社員に不安を与え、そんな牧田の言動に反発を感じる社員もいた。このままでは会社がバラバラになってしまう。
20年10月、牧田は小笠原に打ち明けた。
「これ以上、ツムグを続けるのは無理です。会社を閉じたい」
小笠原は言った。
「ちょっと休めよ」
「どうして私が休まなきゃならないんですか!」
ムキになる牧田を小笠原はなだめた。
「いいから、しばらく南の島にでも行ってきて。会社は俺がなんとかしとくから」
ここまで追い込まれるとは思ってもみなかった。自分はもっと強いはず。この程度のピンチは何度も経験してきたからだ。
母が日本人、父がイギリス人。華やかな雰囲気をまとう牧田は、どこに行っても人目を引く。いつも強気で姉御肌。牧田はそんな外見から想像もつかない、壮絶な人生を歩んでいる。
(ジャーナリスト・大西康之)
※AERA 2021年8月16日-8月23日合併号から抜粋。文中敬称略