山舩晃太郎(やまふね・こうたろう)/1984年生まれ。法政大学卒業後、テキサスA&M大学大学院に留学。2016年に博士号を取得。船舶考古学博士。西洋船(古代・中世・近代)を主に考古学と歴史学、水中文化遺産の3次元測量と沈没船の復元構築を専門とする(撮影/写真部・張溢文)
山舩晃太郎(やまふね・こうたろう)/1984年生まれ。法政大学卒業後、テキサスA&M大学大学院に留学。2016年に博士号を取得。船舶考古学博士。西洋船(古代・中世・近代)を主に考古学と歴史学、水中文化遺産の3次元測量と沈没船の復元構築を専門とする(撮影/写真部・張溢文)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』は、「世界ふしぎ発見!」出演でも知られる気鋭の学者・山舩晃太郎さんによる初エッセーだ。英語力ゼロで単身渡米し、10年かけて憧れの水中考古学者になった山舩さん。イタリアのドブ川で古代船に遭遇した感動に、カリブ海に沈んだ奴隷船の謎──。発掘調査のスリルとリアルとともに、好きなことを究める努力と姿勢に胸打たれる一冊だ。著者である山舩さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 アドリア海の美しい海に潜り、沈没船を発掘する──なんとロマン溢れる仕事なのだろう。「水中考古学者」として活躍する山舩晃太郎さん(37)の初エッセーは、好奇心と冒険心をムクムクと刺激する。

「まだあまり知られていない、このおもしろい学問をもっと知ってもらいたい!との思いで書き上げました」と話す。

 学問に至るまでの道がまずドラマチックだ。少年時代からプロ野球選手を目指し、野球漬けの日々を送ってきた。あるとき大学の図書館で、水中考古学の本を見つけた。

「水中から1万年前の人間の頭蓋骨と脳が発見されたと書いてあったんです。酸素がなく水温もほぼ一定で保存が可能だった。衝撃が走りました。そんなことがあるのか!と」

 学びたい一心で英語力ゼロのまま渡米。当初はマクドナルドでハンバーガーすら注文できず、モーテルに逃げ帰ったほど。それでも情熱を持ち続け、テキサスA&M大学で博士号を取得。夢を叶えた。

 水中での作業は地味だ。海底の砂を吸引器でひたすら吸い込み、埋もれた木材を探す。空気ボンベを背負い、時間との闘いだ。しかも潜るのは美しい海ばかりではない。

「初めて水中発掘したのは動物の死体が流れてくるイタリアのドブ川(笑)。さすがにあの汚さにはびっくりした」

 それでも沈没船を見つけたときの感動には代えがたい。水中遺跡は過去が保存されたタイムカプセルだ。時代や背景を推理し、仲間と答えを探す過程がたまらなく楽しいと言う。本では沈没船から財宝を盗んで売りさばく「トレジャーハンター(盗掘者)」の害にも厳しく言及している。

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