異次元の天才・藤井聡太(右)は現代将棋史上例のないハイペースで勝ち続ける。豊島将之はミスが少なく抜群の安定感を誇る (c)朝日新聞社
異次元の天才・藤井聡太(右)は現代将棋史上例のないハイペースで勝ち続ける。豊島将之はミスが少なく抜群の安定感を誇る (c)朝日新聞社
AERA 2021年8月9日号より
AERA 2021年8月9日号より

 藤井聡太二冠が王位戦、叡王戦の「ダブルタイトル戦」で、苦手の豊島将之二冠に3連勝した。通算成績は4勝7敗。このまま追いつき追い越せば、「藤井1強時代」の到来が見えてくる。AERA 2021年8月9日号の記事を紹介する。

【図】藤井聡太と豊島将之の対戦成績はこちら

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 いよいよ藤井聡太(19)が豊島将之(31)をも乗り越えようとしているのか──。

 将棋界は今、五輪に勝るとも劣らない激熱の夏を迎えている。

 昨夏、史上最年少で二冠を獲得した藤井王位・棋聖は防衛戦を迎えた。棋聖挑戦者は渡辺明名人・棋王・王将(37)。王位挑戦者は豊島竜王・叡王。藤井より序列上位のトップ2が、満を持して藤井に挑みかかる。さらには藤井が叡王戦で豊島への挑戦も決めた。これで盛り上がらない道理はない。

 まず開幕した棋聖戦五番勝負。藤井は3連勝スイープで渡辺を圧倒した。史上最年少18歳でのタイトル初防衛、九段昇段など、いくつもの記録を残して棋聖戦は幕を閉じている。

 そして現在は「十二番勝負」とも言われる、豊島と藤井の「ダブルタイトル戦」が進行中だ。藤井は王位戦第1局で豊島に完敗した。この時点で両者の通算対戦成績は藤井の1勝7敗。しかしそこから藤井は巻き返す。王位戦で2勝、叡王戦で1勝。一気呵成(かせい)に3連勝を返した。

■渡辺名人も驚く逆転

 豊島と藤井のこれまでの戦いはどういう印象か。また今後どうなっていくのか。もう一方の雄である渡辺に見解を尋ねた。

「王位戦第2局は逆転でした。豊島さんが藤井君を相手に、ああいう負け方をしたのは初めてなんですよ」

 観戦者にとっても、この一局のインパクトは大きかった。

 豊島先手で戦型は角換わり。途中まではずっと豊島がリードを保っていた。

 将棋界では「優勢な時間が長いほうが勝つ」という経験則がある。しかし終盤、ドラマが起こる。苦戦を耐え続けた藤井の指し回しに豊島が対応を誤った。

「詰む、詰まないのところで誤算があった」「先のほうのことを正確に読めてなかった」「勝負する手もちょっとわからなかった」

 局後の豊島のコメントだ。

「ああいう逆転負けっていうのは、豊島さんはまず他の棋士には食らわないんですよ。トップ棋士は、ずっと優勢の将棋は、一瞬危なくても、最後はたいがい勝つ。だから豊島さんは『これを負けるのかな』という感じはあったと思います」(渡辺)

 確かに豊島がこうした負け方をする例はあまりない。この一局は大きなターニングポイントとなる可能性がありそうだ。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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