■海洋戦力の強化ならず

 たしかに、大兵力の撤収によって米政府はこれまでアフガンに投入していた戦力を他の任務に転用できることになる。しかし、アフガンの荒れ地や山岳地帯、都市部での非正規部隊との戦闘に従事してきた戦力は、日本防衛ならびに日本周辺での軍事行動にとって必要な海洋戦力とは全く性格を異にしている。

 つまり、アフガンでの戦闘任務が終結したからといって、米国の海洋戦力がわずかでも強化されることにはならない。日本周辺を担当する米軍戦力は、国防総省自身が認めているように、中国海洋戦力に対しては極めて厳しい状態であることに変わりはないのだ。

 日本に直接影響がないとはいっても、日本は米軍のアフガン撤収から以下のような教訓を引き出し、肝に銘じておかねばならない。

 すなわち、またしても米政府は自らが後押ししてきた傀儡(かいらい)的勢力、今回の場合は現アフガン政府ならびに同政府軍を見捨ててしまったという事実である。

 米国は現在、強大な海洋戦力を手にしてしまった中国軍を抑え込むために、米国自身の海洋戦力が再建されるまでの間、日本やオーストラリアをはじめとする同盟諸国を防波堤にしようと躍起になっている。

 しかし、もし日本が軽はずみに米国と同調して中国と軍事衝突でも起こした場合、そしておそらくは日米側にとって直ちに戦局は不利になるものと思われるが、米国は自らの判断を正当化する理由をつくり出して、ベトナムやアフガンから逃げ去ったように、日本政府を見捨てて、中国との軍事衝突から手を引くことは確実であるということだ。

(軍事社会学者・北村淳/米国在住)

AERA 2021年7月26日号