国際オリンピック委員会(IOC)のガイドラインでは、男性ホルモンの一種、テストステロン値が一定以下の状態が12カ月以上続けば、トランスジェンダー女性は性別適合手術の有無に関係なく女子種目に参加できる。ハバードは規定をクリアした。それでも「フェアじゃない」「ドーピングみたいなもの」といった批判は強い。

■差別受ける性的少数者

 スポーツとジェンダー・セクシュアリティー研究が専門の井谷聡子・関西大学准教授は言う。

「身体的性別が男性だからといって、全ての男子選手が女子選手より優れた選手とは限らないのに、トランス女性がスポーツで活躍すると差別的言動にさらされる現実がある」

 スポーツ現場では同性愛嫌悪も根強いという。井谷さんはこれらの背景には三つのイデオロギーが潜んでいると指摘する。

「男性のほうが優れているはずだという性差別意識や、生物には男と女しかないという性別二元性、異性愛を当然とする考えが一部の選手を排除します。たくさんの女性が五輪に出場するようになっても、こうした問題から目を背けたままではジェンダー平等の実現は程遠い」

 男らしさに価値を置いたスポーツ文化を変えようと動き出したのが、今年9月開幕の日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」だ。競技レベル向上だけでなく、性別にとらわれずに一人ひとりが輝く社会の実現を理念に掲げる。同リーグ理念推進部の小林美由紀部長は言う。

「女性アスリートはパフォーマンスより外見やプライベートを取り沙汰され、性的な視線などを向けられることもある。こうした風潮を変えて、自分らしく夢を追いかけられるよう、サッカーを通じてエンパワーメント(力づけ)したい」

(編集部・深澤友紀)

AERA 2021年7月26日号より抜粋