人通りが途絶えた那覇市の国際通り。緊急事態宣言の延長で観光業界の苦境はさらに続く/5月21日(c)朝日新聞社
人通りが途絶えた那覇市の国際通り。緊急事態宣言の延長で観光業界の苦境はさらに続く/5月21日(c)朝日新聞社

 3カ月もの間、緊急事態宣言が継続されることになった沖縄県。観光業界からは悲鳴とともに、検査を受けてから来県するなど観光客に「新常識」の遵守を求める声が上がる。AERA7月26日号から。

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「長いな、と正直思う」

 沖縄県の玉城デニー知事は7月8日、緊急事態宣言の延長を受けて、記者団にこう述べた。

 県は緊急事態宣言の期限とされた7月12日以降は「まん延防止等重点措置」への移行を国に要請していた。政府がこれをはねつける形で出した結論は6週間の宣言延長。観光業界に衝撃が走った。沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)の下地芳郎会長は「延長は避けて欲しかった」と悔しがる。

■観光業界に厳しい視線

 OCVBは宣言解除を見越し、8月の観光客数が昨年の2.5倍となる約50万人まで回復すると推計していた。「それぐらいは達成しないと、沖縄の観光業界を守れないという思いがありました」(下地会長)

 県内の観光客数は2019年に初めて1千万人を突破。だが20年は前年比63.2%減の373万人に落ち込んだ。今回の宣言延長は、2年連続で夏休みの需要を失うことを意味する。観光施設などでは解雇が相次ぎ、今年3月の完全失業率(原数値)は4.4%と、全国の2.7%を大きく上回った。シンクタンクの南西地域産業活性化センター(那覇市)が3月にまとめた推計によると、20年度の実質県内総生産は前年度比9.8%減になる見込みだ。

 一方、県民の間には観光業界や観光客への不満もくすぶる。「島嶼(とうしょ)県」である沖縄の感染拡大には一つの特色がある。県外からウイルスを持ち込む「移入例」が感染率上昇の引き金になっているのだ。

 また大型連休の際、玉城知事が経済界の意向を重視して酒類提供の自粛要請をしなかったことが、今の感染拡大につながったとの指摘もある。那覇市に住む40代の会社員男性は言う。

「レンタカーを見かけると、嫌悪感をあらわにする人も周囲にいます。『観光業界=悪』『観光客=敵』という見方が県民に広がるのを心配しています」

 そんななかで物議を醸しているのが、菅義偉首相の言動だ。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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県の取り組みは不十分