この精神性は「SMILE」においても<世の中は今日この瞬間も悲しみの声がする>というフレーズに表れていると筆者は捉えている。桑田自身、この曲のタイトルについて「被災地が明るく元気でありますようにという思いを込めた」とコメントしているし、今年3月11日河北新報掲載のインタビューでも、「音楽人として東北に向き合い、復興のために活動することが第一のプライオリティー(優先順位)だと思っている」と語っていた。

■初出時以上の意味合いを帯びる

 また、「SMILE」については今年3月7日の配信ライブ「静かな春の戯れ ~Live in Blue Note Tokyo~」も忘れられない。桑田は今回のコロナ禍において、サザンで2回、ソロ名義で1回の配信ライブを行ってきた。その背景には有観客での公演がままならないエンターテインメント業界の苦境と自身のライブ制作に携わるスタッフへの憂慮があった。

「静かな春の戯れ」における「SMILE」の演奏では、制作スタッフたちが観客の代わりを担うかのように腕を上げ、手拍子を送ってステージを盛り上げていた。この時「SMILE」は、エンターテインメントの未来を信じる"約束の歌"としても機能していたのだ。

 このように、一つの曲の意味が後に初出時以上の意味合いを帯びるといったケースが桑田の曲には幾つもある。直近では、11年のアルバム「MUSICMAN」収録の「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」が今年10月1日公開の新作映画「護られなかった者たちへ」の主題歌に決定している。

 1966年のビートルズ来日という音楽体験をモチーフに、その後の日本が辿った環境や価値観の変化を描いたこの曲は、11年9月のソロライブ「宮城ライブ~明日へのマーチ!!~」のアンコールで歌われ、当時の観客の様々な思いとリンクした。その曲が、いままた新たな物語のテーマとして選ばれ、脚光を浴びようとしているのだ。

 桑田が自身のソングライティングにおいて独自のジャーナルな視点を発揮してきた曲は、サザン/ソロのそれぞれで幾つも存在する。

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