人種問題も絡む。使用率は人種間で大差ないのに、黒人が大麻関連で逮捕された割合は白人の約3.6倍という米国の人権団体の調査結果もある。合法化が人種的な不平等の解消につながれば、との期待もあるという。

 日本ではもちろん様相が異なる。丸山教授はこう強調する。

「使用罪反対の議論は、自由に使っていいという合法化の話とは別です。しっかりとした管理のもとで、福祉や教育とともに問題使用の減少を目指すということです」

 刑事司法に依存しない薬物政策を研究する丸山教授が、「モデルケース」と評価するのがポルトガルだ。

 ポルトガルは01年にほとんどの依存性薬物の個人の使用・所持に関する処罰規定をなくす法改正を行った。かつては法務省を中心とした取り締まり機関が薬物政策を担っていたが、ヘロイン使用者が人口の1%の約10万人に達するなどしたため、治療を中心とした政策に徐々にシフトした。

「厳罰化派も非犯罪化・非刑罰化派も薬物の問題使用を減らしたいという目指すゴールは同じです。効果的に減らすにはどうすればいいか、という問題意識でエビデンスをとると、刑罰ではなかったということです」(丸山教授)

 ポルトガルが懲罰の代替策として採用したのは、薬物使用の背景にある生きづらさなどに焦点を当て、相談や治療、回復支援に力を入れる施策だ。いますぐ使用をやめたい人向け、徐々に使用を減らしたい人向け、といった具合に個別のニーズに応じ、科学的根拠に基づく多様な薬物使用防止プログラムを用意している。

 このように薬物使用を非刑罰化し、貧困、障害、病気、トラウマなど薬物依存の背景にある問題と向き合う政策は「ハームリダクション」と呼ばれる。これには、注射針を使い回すことで広がるエイズウイルス(HIV)感染症や肝炎対策として、未使用の清潔な注射針を無料で配布したり、依存者が離脱症状にならないように代替物質を配布して日常生活が送れるようにしたりすることも含まれる。この政策はポルトガルを始めとする欧州やカナダなどで広がっているという。ポルトガルモデルを評価する理由を丸山教授はこう話す。

「その人らしい生き方を最大限サポートする、人権に配慮した政策だからです。厳罰化で蓋(ふた)をしても薬物問題は根本的な解決には向かわず、弊害が増すばかりです」

 刑罰に頼る薬物政策は、薬物使用者やその家族に対する過度な社会制裁を誘発させるため、抑止効果よりも弊害のほうが大きい、ともいわれる。

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