すごさは打撃だけにとどまらない。6日のレッドソックス戦に「2番・投手」で先発出場し、今季最長タイの7回を投げて被安打5、2失点で4勝目、日米通算50勝目をマークした。6月30日のヤンキース戦では5四死球と乱れて一回途中7失点で降板したが、6日は今季2度目の無四球ときっちり修正。打っても一回に右翼フェンスに達する適時二塁打と「二刀流」でチームを勝利に導いた。

■球宴初の二刀流出場へ

 投手としての才能も稀有(けう)な存在だ。エンゼルスの番記者は力説する。

「大リーグで101マイル(約162キロ)を投げられる先発投手は大谷を含めて数えるほどしかいない。加えて大きな落差が武器のスプリットもある。制球が定まれば、相手は打てないです。ヤンキース戦も四球を連発して1回持たなかったけれど、ストライクでもおかしくない際どい判定が何球もあったし、立ち直って好投する可能性もあったから紙一重でした。投手としても野手としても規格外でどんな数字を残すか想像できない。MVPの最有力候補だし、10勝、50本塁打も決して夢ではないでしょう」

 大谷は13日に開催されるオールスター戦でも、史上初となる投打の二刀流で登録メンバーに名を連ねた。ファン投票の指名打者部門トップに続き、選手間投票で先発投手の5位に。前夜祭は日本人で初のホームランダービーに出場することも決まっている。お祭り舞台の主役として期待がかかる。

 日本ハム時代から大谷を見続けるスポーツ紙の番記者は「怖いのは故障だけです」と語る。

「投手と打者をこなし、心身に大きな負担がかかっているはずです。走塁も常に全力疾走で手を抜かない。大谷本人が望んで挑戦していることですが、どうしてもケガのリスクは高くなる。相手うんぬんより、故障せずに1シーズンを戦い抜けるかがポイントになると思います」

 本塁打王への期待から「打者専念」を望む声が一部のファンから上がっているが、それには否定的な見方だ。

「タイトルを狙うなら最初から二刀流に挑戦していないでしょう。日本ハム時代もそうですけれど、大谷は投手と打者の両方でプレーすることが大きなモチベーションになっていると思います。私たちの想像を超えた次元でプレーしているので、今後も驚くような進化を遂げる可能性が十分にあります」

 日本人が大リーグの本塁打王になり、2桁勝利を挙げる──。漫画でも想像できないような領域に、大谷は足を踏み入れている。(ライター・牧忠則)※数字は7月7日現在

AERA 2021年7月19日号