風向きが変わったのは投開票の2日前。突如、小池氏が姿を現し、会見。やつれた表情で「いつ倒れても本望」とぶちあげたのだ。しかし、都民ファーストの関係者以外は「姿を見せたところで、このタイミングからの巻き返しは難しい」といぶかった。ところが、ふたを開ければ都民ファーストは当初の予測を上回る31議席を獲得。本誌の取材に応じた前出の候補者も当選した。後日、小池氏の「勝負勘」に改めて脱帽したと振り返った。

「勝負は負けですよ。けれども、次につながる負け方があると思い知らされました。報道を見ても、一面の見出しは『自公、過半数届かず』。都民ファーストは前評判の割には、よく議席を守ったねという、程度の悪くない扱いですから」

 ちなみに野党の獲得議席数は「日本共産党19」「立憲民主党15」。快勝とは言えないが、まあまあの数字だ。注目すべきは両党が21選挙区で候補者を一本化したことだ。1人区、2人区を中心に12選挙区で議席を獲得し、一定の成果を上げた。

■野党共闘が一定の成果

 共闘の象徴となったのが武蔵野市だ。立候補したのは立憲民主党の新人・五十嵐衣里氏。菅直人元首相のおひざ元で、衆院東京18区(武蔵野市、府中市、小金井市)では、自民党の土屋正忠元衆院議員と通称「土菅戦争」と呼ばれる激しい選挙戦を繰り広げてきた。都議選では土屋氏の娘・ゆう子氏が立ち、都民ファーストは現職の鈴木邦和氏を擁立。定数1を巡って三つどもえの激戦を繰り広げた。

 結果は五十嵐氏の圧勝。しかも開票数分で当選確実が決まった。これには五十嵐陣営も驚いたと語る。立憲民主党の都連幹部はこう勝因を分析する。

「候補者もよかったが、何と言っても野党共闘。このコロナの状況下でオリンピックに突き進んだ小池氏、そして自民党への批判の決定的な受け皿になることができた。ただ、野党に風が吹いたかと言えばそれは違う」

(編集部・中原一歩)

AERA 2021年7月19日号より抜粋