写真はイメージです(gettyimages)
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江利川ちひろ/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ
江利川ちひろ/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害を持つ子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出会った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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■短命になっても手術はしない

 長女には重度の脊椎側弯症があります。彼女は現在、背骨の曲がりにより肺が圧迫され、人工呼吸器を使いながら生活をしています。側弯に最も有効な治療は手術でしたが、長女はすでに完治できない状態であり、さまざまなメリットとデメリットを比較した結果、私たちは、「たとえ多少短命になったとしても手術はしない」という結論を出しました。

 今回はその決断にいたるまでの話です。

 2018年11月、手術の話し合いの日には、私たち家族の他に、主治医のター先生と小児科医の友人のあーちゃん、さらにあーちゃんの長男くんと次男くんも来てくれました。

 普段からきょうだいのように育っている子どもたちですから、次女も息子も、大人だけの重い空気の中で話すよりずっとよかったと思います。

 子どもたちにはゆうの状況についてまだほとんど話していなかったため、まずはあーちゃんがA4サイズにプリントしたレントゲン写真を使って、状況を説明してくれました。

■「死ぬより痛い方がよくない?」

 今、ゆうの身体の中では背骨がこんなに曲がってしまっていること、手術をするかしないかを迷っていること、手術をするなら首の付け根から尾てい骨まで切って骨を背骨から剥がした上でボルトを止めるため、ものすごく痛い思いをしなければならないこと、手術をしないなら呼吸が苦しくなったりおなかの中で腸がねじれたりして亡くなってしまうかもしれないこと、みんなでゆうが一番苦しくない方法を考えていること……。

 あーちゃんは、子どもにもわかりやすい言葉を使って、くわしく話してくれました。

 すると、次々に小学生男子らしい言葉が出てきました。

「やれるだけやった方がよいんじゃない?」

「死ぬより痛い方がよくない?」

「だよね? ゆうは死ぬのは怖くないの?」

「そもそもなんでこんなに曲がっちゃったの?」

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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