「ジムのやさしさはエセじゃないんですよ。変わったことをしてやろうとか、こういう話を作ったらヒットするだろうとか、そういう濁った感情がないんです。本当に尊敬する人です」

 近年、字幕映画を避ける人が増えていると聞く。わかりやすい起伏のある作品がヒットする傾向もより強くなっている。だが、コロナ禍によって「何でもない日常」が揺るがされたいまこそ、その大切さや、人のあたたかさを感じられるジャームッシュの映画は、より観る者の心に響くのではないだろうか。

「それこそが、ジャームッシュイズムというのかな。本当に、いろんな人に触れてほしいですね。僕みたいにリアルタイムで観ていた人はもちろん、若い人にも観てほしい。いまはコミュニケーションが取りづらい時代だから、そういう意味でも、例えば会社の後輩とかを誘って劇場に来ていただければなって。きっかけは何でもいいんです。それこそ、ジョニー・デップ出てるよ(「デッドマン」)、でもいいし、音楽が好きなら「ダウン・バイ・ロー」にはトム・ウェイツが出ていますし、「パターソン」や「デッド・ドント・ダイ」には、フォースを使える役者(アダム・ドライバー)が出ていますからね(笑)。きっかけは何でもいいので、1作品でも観てほしい。そして面白いと思ったら、別の作品も観てみる、というような、広がりのきっかけになればいいなと。まずは触れて、何かを感じてもらえればいいなと思います」

◎JIM JARMUSCH Retrospective 2021
7月22日まで、新宿武蔵野館・ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷シネクイント・アップリンク吉祥寺(すべて東京)の4館で開催。以降、7月30日~8月12日チネ・ラヴィータ(宮城)、8月6日~8月26日テアトル梅田(大阪)、8月6日~8月19日シネ・リーブル神戸(兵庫)、8月13日~9月16日アップリンク京都(京都)、9月10日~9月30日静岡シネ・ギャラリー(静岡/9作品のみ)、ほかセンチュリーシネマ(愛知)、八丁座(広島)、KBCシネマ(福岡)、札幌シアターキノ(北海道)で調整中

(編集部・伏見美雪)

AERA 2021年7月12日号