同社のオフィスは、新築の低層社屋のほかに、元・銀行のビル、昭和時代の木造民家など、駅前に点在するさまざまな建物から成る。それらをつなぐ道路がオフィスの「廊下」だ。古い建物や空き家をまちのリソースとしてとらえ直し、鎌倉に在勤、在住する人が共同で使える「まちの社員食堂」「まちの保育園」など、コミュニティー施設も展開する。低層の建物が分散する鎌倉の都市形態が、ユニークなアクションを支えているのだ。

 カヤックCEOの柳澤大輔さん(47)は言う。

「鎌倉では税金を納めている住民が、企業の株主のように発言権を持って、堂々とそれを行使している。行政も市民の声を聞く姿勢があって、JR鎌倉駅周辺で高層ビルの建設を禁じている。そのバランスの中で古い町並みが守られて、僕らのような会社が発想力を使って、価値をさらに拡張していく。そういう循環が面白いですよね」

 コロナ禍によるリモートワークの浸透によって、都心の超高層に対比する「郊外」「自然環境」「昔ながらの町並み」が、再び浮上していることは確かだ。この価値の変動は今後、もっと大きな流れになるだろうか。

 都市政策を専門とする饗庭伸・東京都立大学教授(50)は、東京都の住民基本台帳のデータを使い、18年から20年9月末の行動変化を検証した。それによると、「郊外から都心への通勤・通学行動には数百万人の昼間人口の変動があったが、都心から郊外へ居住地を移す大きな流れは認められなかった」。つまり、「かまずよう」のような「ワーク=ライフ」は、まだメジャーにはなっていないということだ。

 ただし、それは、「大きな変化は起きない」ということではない。すでに数百万人規模の通勤・通学行動に変化が生じたことによって、これからは各自が都市を「カスタマイズ」する時代になっていくと、饗庭さんは予測する。

「出社が抑制されることで、自宅、リモートオフィス、カフェなどが代わって仕事場になり、空き家や空き部屋を、リモートやシェアオフィスに転用する動きも出た。個人がそれぞれの都合で時間と場所を編集できる。そんな余地のある都市が再評価されるでしょう。その場合、超高層ビルよりも、人がふらっと移動できる水平型の都市形態にアドバンテージがあります」

 都市のカスタマイズとは、人が都市に「縛られ」「使われる」のではなく、人が都市を「使う」という望ましい未来のことだ。「かまずよう」で進行する多様な「ワーク=ライフ」が、社会にもたらす恩恵は大きい。(ジャーナリスト・清野由美)

AERA 2021年7月12日号より抜粋