いつかは緊急事態宣言も完全に解除され、再び学校施設が使えるようになるだろう──。椎名さんらも高をくくっていたが、結局、新型コロナの猛威は収まらず、今年6月21日に「まん延防止等重点措置」に切り替わっても開放のメドは立たなかった。

 実はこのころには周辺自治体で学校施設の開放が相次いでいた。早かったのは東京都世田谷区で5月31日に屋内施設を含む開放を決定している。その背景にはコロナ禍で満足に体を動かすことができない子どもたちへの配慮があった。スポーツ庁も「十分な距離の確保」「マスクの着用」「手洗い、手指消毒の徹底」をした上で施設開放を推奨していた。

■なぜ小平市だけなのか

 結局、小平市は都内で唯一、6月下旬になっても施設開放が決定されなかった。なぜ、小平市だけ開放されないのか。サッカーをする人中心に、市民が疑問を持ち始めた。椎名さんは、子どもたちの夏休みを前に親として思うことがあったという。

「小平市はホームページで7月11日までは開放できないと書いていました。ただ、なぜ小平市だけがダメなのか、その理由が明示されていなかったのです。このまま進展がなければ夏休みに突入してしまう。もしかすると、夏の大会もこのまま中止になってしまうのではないかと不安になりました」

 椎名さんらは、息子が所属するクラブチームの保護者らと学校施設を管理する小平市教育委員会に直談判。ところが「感染リスクが避けられない」と却下された。とくに「競技によって感染防止のガイドラインが異なる」ことが最大の障壁だった。

 しかし、サッカーの場合、日本サッカー協会がコロナ禍における地域のサッカー活動の再開に向けてガイドラインを作成。それに基づいて、各地のクラブでサッカー活動が再開されている。スポーツ庁に問い合わせると「現在まで、(小中学校の)サッカーの練習や試合の現場でクラスターが発生した事例は確認されていない」と担当者は回答。ただ、どんなスポーツでもリスクを完全にゼロにするのは不可能だ。

 諦めきれない椎名さんらは、サッカークラブに所属する子どもと保護者らと一緒に「施設開放」を求める署名活動をオンライン上で開始。「子育て環境が大切にされている小平市だからこそ、運動できる場所としてスポーツ団体への開放を再開してほしい」と声を上げた。集まった署名は数日で1千筆近く。1日、椎名さんは子どもらと一緒に署名を市に提出し、「五輪は開催するのに、なぜ週末のサッカーはだめなのか。子どもに説明できない」と訴えた。

次のページ