キユーピーが開発した代替卵「HOBOTAMA(ほぼたま)」。解凍するだけで、スクランブルエッグ風の料理ができる(撮影/写真部・高野楓菜)
キユーピーが開発した代替卵「HOBOTAMA(ほぼたま)」。解凍するだけで、スクランブルエッグ風の料理ができる(撮影/写真部・高野楓菜)
「HOBOTAMA」を使ったハンバーガー。パティも「代替肉」にすれば、植物ベースの商品ができあがり(写真:キユーピー提供)
「HOBOTAMA」を使ったハンバーガー。パティも「代替肉」にすれば、植物ベースの商品ができあがり(写真:キユーピー提供)

 キユーピーが植物由来ベースの「スクランブルエッグ」をつくった。卵にこだわるメーカーとして生み出した自信作。開発担当者が明かす、卵を使わずに食感と風味を醸す秘策とは──。AERA 2021年7月12日号から。

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 見た目は半熟のスクランブルエッグ。食感はトロッ。キユーピーが6月30日に発売した植物由来の新食品「HOBOTAMA(ほぼたま)」は、その名の通り、ほぼ卵だ。

 開発したのはグループ会社のキユーピータマゴ。殻を割って中身を取り出した「液卵」を食品会社などに卸している。キユーピーは国内の鶏卵生産量の1割を使う卵のエキスパート。新たな食の価値観、多様性に対応するために生み出した。

 担当した梶聡美さん(34)が、最初にイメージしたのは「湯葉」だったという。

「コクがあって栄養豊かな豆乳加工品を原料に選びました」

■フワトロ感に大苦戦

 だが、半熟卵のフワトロ感を再現するのは至難だった。目をつけたのが、キユーピーがマヨネーズの滑らかさを出すために開発した独自の乳化技術だった。マヨネーズは冷凍しても加熱しても滑らかだ。この技術を応用し、納得のいく水準の食感を再現した。

 次は風味だ。

 開発に要した2年余。梶さんは「卵とは何か」というテーマにとことん向き合った。実は卵の味に定義はない。卵によってうまみや塩味が微妙に異なり、消費者の好みもばらばら。香料や調味料を駆使して「いかにも卵らしい」風味に近づけようとすればするほど、逆に偽物っぽく感じられてしまうのだ。梶さんは汎用(はんよう)性が高く、和洋中の料理にも合う卵の特性を考え抜き、「余計な味や香りがしないのが卵の特徴」だと気づいた。

 とはいえ大豆の匂いを消せばいいというのでもない。無味無臭ではダメ。たどり着いたのは、卵っぽい風味が「鼻から抜けるタイミング」にフォーカスすることだった。

 梶さんは言う。

「卵は口に含んでからワンクッションおいて、味や香りが鼻から抜けていきます。風味そのものよりも、この鼻から抜けるタイミングが重要なんです」

 その成分として、梶さんは酵母を選んだ。試行錯誤を重ね、139番目でゴーサインが出た。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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