金正恩氏(右)と李雪主氏(Korea Summit Press Pool/gettyimages)
金正恩氏(右)と李雪主氏(Korea Summit Press Pool/gettyimages)
AERA 2021年7月5日号より
AERA 2021年7月5日号より

 米国からの対話を望む呼びかけに、沈黙している北朝鮮。政治的ディールを排除したバイデン政権の方針が影響しているようだが、一方で中国の影も見え隠れする。AERA 2021年7月5日号では、北朝鮮の現状やその背後にある中国の存在について取り上げた。

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 北朝鮮も万全の状況にはない。複数の脱北者によれば、北朝鮮では最近、食糧価格が軒並み上昇している。韓国の情報機関、国家情報院は今年2月に韓国国会で行ったブリーフィングで、北朝鮮で今年、食糧が約100万トン不足すると報告した。ざっとみて、北朝鮮の人びとが食べる2カ月分の食糧が不足する計算だ。

 ただ、食糧不足が事実だとしても、北朝鮮が米国や韓国に支援を求めることはないだろう。北朝鮮の念頭にあるのは中国だ。労働新聞は21日、中国の習近平(シーチンピン)国家主席の訪朝2周年を記念し、「(中朝の)交流を推し進めて協力を深める」とした李進軍(リージンジュン)駐北朝鮮中国大使の寄稿文を掲載。今春、耕作用の肥料を緊急輸入したのも中国。最近では、新型コロナウイルス対策で中国製ワクチンの輸入を始めたという未確認情報もある。

 米中関係が緊張しているなか、中国が自らの勢力圏だと認識している北朝鮮の崩壊を傍観するだろうと予測する専門家はいない。

 ここに来て、金正恩氏の健康問題も再燃している。一時期140キロまで増えた体重が減少に転じたとみられるからだ。持病の糖尿病が悪化し、大幅な食事制限に踏み切った可能性や、政権を運営する意欲の減退が原因なのかもしれない。

 ただ、北朝鮮も様々な手を打っている。今年1月の党大会では党規約を改正し、「党総書記の代理人」と明記した「党第1書記」のポストを新設した。最近は会議の定例化や分科会開催などを通じ、統治システムの整備にも余念がない。このままでは、来秋の中間選挙で敗北すればレームダックが始まるとされるバイデン政権を無視し、次の政権を待つ戦略を取ることになりかねない。

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