AERA 2021年7月5日号より
AERA 2021年7月5日号より
井上智紀(いのうえ・ともき、48)/ニッセイ基礎研究所主任研究員。少子高齢社会、社会保障、消費者行動などを専門とする調査・分析を行う(写真:本人提供)
井上智紀(いのうえ・ともき、48)/ニッセイ基礎研究所主任研究員。少子高齢社会、社会保障、消費者行動などを専門とする調査・分析を行う(写真:本人提供)

 老後資金「2千万円問題」以降、老後のお金に不安を抱える人は多い。医療費アップも不安だ。AERA 2021年7月5日号は、専門家に老後資金のリアルを聞いた。

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「年金だけでは暮らせないと思う。夫は七つ年上で退職が早いので、私ががんばるしかない」(40代女性)。「老後にいくら必要なのか把握していない点では不安」(30代男性)。「資産を取り崩しながら年金不足分を生活費にあてるのがメンタル的に持つか」(40代男性)。「コロナ禍で突然の退職勧奨となり、老後資金作りの計画が狂ってしまった」(50代女性)。

 これらは、本誌が6月4~14日にインターネットを通じて行った「年金・資産運用アンケート」(回答者176人)に寄せられた生の声だ。「老後のお金に不安がありますか?」という問いに対しては、67%が「ある」と回答していた。

■高齢者家計赤字の実態

 金銭面で老後に不安を抱く人が多いのは、2019年に「老後資金2千万円問題」が話題となったことも影響しているだろう。同年6月、金融庁は「高齢社会における資産形成・管理」という報告書を公表。「公的年金だけでは老後資金が約2千万円不足する」と解釈できる記述があり、大騒ぎになった。

 金融庁が根拠としたのは総務省統計局の「家計調査年報」2017年版だ。「高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)無職世帯の家計収支」において約5万5千円の赤字が毎月発生していたことから「5万5千円×12カ月×30年=約2千万円」と試算した。

 後日、金融庁はこの報告書を撤回したが、高齢夫婦無職世帯における赤字家計は今も続いているのだろうか。

 18年版の「家計調査年報」を見ると、公的年金の受給額が1万円以上増えたので、毎月の赤字額は4万2千円弱に縮小。19年版では公的年金の受給額がさらに前年比で約1万3千円のプラスとなり、赤字額は約3万3千円に減った。

 なぜ年金の受給額が上がっているのか。この謎について、ニッセイ基礎研究所主任研究員の井上智紀さんが解説する。

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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