選手村は44ヘクタールの敷地にあり、病院や雑貨店、クリーニングなど選手の生活を支える施設もある。大会後は分譲マンションとなる(撮影/写真部・松永卓也)
選手村は44ヘクタールの敷地にあり、病院や雑貨店、クリーニングなど選手の生活を支える施設もある。大会後は分譲マンションとなる(撮影/写真部・松永卓也)

 コロナ禍で強行開催される東京五輪の感染対策について、医療関係者からは疑問の声が相次ぐ。感染が拡大すればツケは国民に回ってくる。AERA 2021年7月5日号から。

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 感染拡大のリスクは選手村の外にもある。五輪の場合、来日する約4万1千人の大会関係者や一部の選手は村外に泊まる。感染対策が違うとはいえ、ブラジルで開催されているサッカーの南米選手権では、運営スタッフやホテルなど外部従業員を中心に140人の陽性者が出た。

■駅や電車で密のリスク

 また、定員50%以内、上限1万人の観客が各会場に入る。場内では互いの距離を取るなど対策が取れたとしても、東京・有明など会場がいくつも隣接しているところでは駅や電車内で「密」が起きるリスクがある。

 京都大と東北大、国立感染症研究所の研究者が示したシミュレーションによると、緊急事態宣言解除後に人流が10~15%まで増え、五輪開催による人流が10%増加したと仮定すると、7月末には都内の新規感染者数が1日千人を超える。インドで見つかったデルタ株の影響を考慮すると、7月下旬に2千人を超えるという。6月25日の都内の新規感染者は562人だ。

 東京都北区保健所の前田秀雄所長は、有観客での開催による国民への心理的影響を懸念する。

「今大会はアメリカでの放送時間の関係もあって夜9時とか10時から夜中まで行われる試合も多い。店での飲食は夜8時までと言われ、我慢して帰宅してテレビをつけたらお祭り騒ぎをやっている。『なんで自分たちだけ自粛しないといけないのか』と対策が緩んでしまう。不要不急な開会式や閉会式は大幅に簡素化して競技に集中するなど開催の方法を工夫してほしい」

 前田さんによると、5月下旬に組織委の担当者から観客などから感染者が出た場合の対応について説明があったという。

「観客が集まり、祝祭気分で人流が増加し感染者が増えても、全て各自治体の対応ということ。保健所の態勢はすでに通常時をはるかに上回っていて、これ以上強化しろと言われても限界がある。五輪によりさらなる感染拡大が起きれば態勢は持たない」

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