入管施設での死はウィシュマさんが初めてではない。病死、自死、餓死……。07年以降、彼女を含め17人が死亡している。1年に1人以上、国の施設で人が死んでいることになるのだ。指摘されているのが、入管の「体質」だ。

■在留資格がないと害悪

 ウィシュマさんの遺族の代理人を務める高橋済(わたる)弁護士は、組織全体に「特高マインド」があると指摘する。特高とは「特別高等警察」の略で、昭和のはじめに国民弾圧の最前線の役割を果たした。高橋弁護士は言う。

「収容者を『制圧行為』と称し多数で首を絞めたり骨折するまで暴行を加えたり、瀕死(ひんし)の状態になっても放置しておく。入管ではそうした事例がたびたび起きています。刑事事件を担当しても、警察でもここまでひどいことはまずしません」

 東日本入国管理センター(茨城県牛久市)で、収容中に、職員から暴行を受けたとしてトルコ出身のクルド人男性(40代)が国に損害賠償を求めた訴訟で、国側は19年12月、取り押さえる様子を録画した映像を証拠として東京地裁に提出した。そこには、「痛い」「やめて」と叫ぶ男性を、複数の入管職員が力ずくで押さえつけ、「制圧、制圧」と言いながら馬乗りになって後ろ手に手錠をかけたりする場面が収められている。

「これまでの弁護の過程で、この入管職員は常に懐疑心と差別心を持ち、在留資格がなくなった外国人は社会に害悪だから隔離拘禁しなればいけないと考えているとしか思えない、と感じる場面が何度もありました。特高のマインドが引き継がれているというのは、現場感覚としてすごく納得がいきます」(高橋弁護士)

 5月、国会審議中だった入管法改正案は人権上の数々の疑問が指摘され実質廃案となった。だが、現行の入管法は残る。このままでは第2、第3のウィシュマさんが出る恐れがある。

 高橋弁護士は、次の3点を改善するべきだと提言する。

■恣意的な判断が横行

 1点目は「全件収容主義」。在留資格のない外国人は誰でも収容してよいとする考えで、日本の入管政策の特徴だ。

「収容中に亡くなる事例は、すべてこの政策の下で起きています。在留資格がない外国人は危険だと考え施設に閉じ込めていますが、日本も批准している自由権規約では『非拘禁』、つまり身体の自由が原則で収容は例外的だと定めています。日本では民主国家における行政機関として、あってはならないことが行われています」(高橋弁護士)

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