取材の際に、野田さんにいちごちゃんの話をした。予期せぬ妊娠による孤立出産や遺棄事件は後を絶たず、その防波堤となる内密出産をめぐってギリギリのケースが起きていることを伝えた。すると、野田さんはこう言った。

「その子、18歳でよく頑張ったね。産んでくれてありがとうって言いたい」

 野田さんの母が野田さんを身ごもったとき、両親は婚姻届を出していなかった。

「だから私も予期せぬ妊娠で生まれた子どもなのよ。それに、うちの息子みたいに障害を持って頑張って生きてる人間もいるしさ。いちごちゃんによろしく言ってよ」

 野田さんは第三者の女性から提供された卵子と夫の精子を使った体外受精により50歳で出産している。また、10歳になった息子には障害がある。出産には、さまざまな事情や予期せぬ状況が複雑に絡み合うことを体感している。

 予期せぬ妊娠をめぐる問題は女性ばかりが責められ、生まれた子どもはかわいそうだと言われる。だが、決して子どもはかわいそうではないし、命をかけて子どもを産んだ女性のことが大切に考えられていない。そう指摘するのは、TBS報道局記者の久保田智子さんだ。久保田さんは19年に、特別養子縁組により赤ちゃんを迎えた。夫と子どもとの暮らしに幸せを感じている。

 子どもを特別養子縁組に託す女性には、貧困や虐待など厳しい成育環境に育ち支援が乏しい人が多いことを久保田さんは知った。

 特別養子縁組に子どもを託す際に泣かない女性はいないという。生後4日の赤ちゃんを託されたとき、久保田さんは病院で実母と対面した。わずかな時間だったが短い会話と表情から女性の言葉にならない思いを全身で感じ取った。

 特別養子縁組、ゆりかご、内密出産。いずれも産んだ女性たちには育てられない事情があり、赤ちゃんを託す。不倫や多産などのケースは批判されることもある。

「仮に反社会的な背景があったとしても、産む瞬間にはその人は命がけで産んでいるはずです。そのかけがえのない行為に対する尊敬の思いが私にはあります。娘を託してもらって私たちは感謝していますし、産んだ女性にはどうか幸せになってほしい」(久保田さん)

 命がけで産んだ人と生まれた命が無条件に大切にされる社会であるためにはどうしたらいいのか。自分で育てられない女性たちの、困難な背景が可視化されなければならないと、育てられない女性の哀しみに触れた久保田さんは言った。(ノンフィクションライター・三宅玲子)

AERA 2021年6月28日号