「可愛すぎるジュノンボーイ」として話題となり、現在はモデルとして活躍する井手上漠さん。初のフォトエッセイ『normal?』には、故郷・海士町をのびのびと巡る姿が収められている。けれども、ほんの5年前まで、自然体で町を歩くことは、「普通」のことではなかった。AERA 2021年6月21日号から。
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「例えば、外出先でトイレに入る。銭湯に入る。デパートで服を買う。プロフィールの性別欄を記入する。多くの人が当たり前にやっていることだが、どれも井手上にとっては軽々しくできない。自分には『性別がない』と感じているからだ。だから『男か、女か』の二者択一を迫られると、とても困ってしまう」
――今年4月に上梓したフォトエッセイの中で、日常に潜む男女の境界線を“見えない壁”と表現した。
井手上漠(以下、井手上):18年間で、たくさんの性別の壁にぶつかってきました。私のようなジェンダーはすごくマイノリティーだから、世の中の「普通」の基準や感覚にそわないこともたくさんあります。一方で、当事者として伝える意味も感じているというか、私が声に出すことで何か変わることもあるかもしれないと思って、今回のフォトエッセイを出そうと思いました。
――タイトルは「normal?」。18年間、目の前に立ちはだかってきた「普通」に対する思いを込めた。
井手上:特に「?」の部分が大切だと思っています。何が普通かなんて、普段は考える機会がないじゃないですか。でも、私にとってはとても身近な問題でした。今までもずっと「普通にしなさい」と言われ続けてきて、「普通ってどういうこと?」「もっと普通にしたほうがいいのかな」とか、ずっと考え続けてきたので。
■「変わってる」が怖い
――島根県の沖合に浮かぶ隠岐諸島で生まれ、高校卒業まで母と姉の3人で暮らした。身体は男性として生まれたが、昔から“強くてカッコいい”ものより、“かわいい”ものが好きだった。
井手上:3歳のときに、親戚の結婚式で見たウェディングドレスに感激して、「なんてきれいなんだろう!」と憧れたのをよく覚えています。
母子家庭だからっていうのもあるかもしれないけれど、髪形や服装といった外見は、「女性もの」のほうが自分にしっくりきたんです。髪が長いことも、プリキュアが好きなことも、女の子と遊ぶ時間が多いことも、それこそ私にとってはぜんぶ普通のことでした。