中村文則(なかむら・ふみのり)/1977年、愛知県生まれ。2002年に『銃』でデビュー。05年に『土の中の子供』で第133回芥川賞を受賞。近作に『教団X』『あなたが消えた夜に』『私の消滅』『R帝国』『その先の道に消える』『自由思考』『逃亡者』などがある(撮影/写真部・高野楓菜)
中村文則(なかむら・ふみのり)/1977年、愛知県生まれ。2002年に『銃』でデビュー。05年に『土の中の子供』で第133回芥川賞を受賞。近作に『教団X』『あなたが消えた夜に』『私の消滅』『R帝国』『その先の道に消える』『自由思考』『逃亡者』などがある(撮影/写真部・高野楓菜)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

 占い師の「僕」はある組織の依頼で、謎の資産家の専属占い師となる。だが、彼は自分を騙す者を殺害するような男だった──。中村文則さんの新作『カード師』は、「占い」「手品」「ポーカー」、そしてギリシャ神話から中世の魔女狩り、ナチス政権下のドイツ、さらに新型コロナウイルスが蔓延する現代を取り込みながら「現実を変えようとする祈り」を描いた“到達作”だ。著者の中村さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 中村文則さん(43)の新作は「占い」という、やや意外な切り口で始まる。主人公の「僕」は占い師。しかし実は占いを信じておらず、違法カジノでポーカー賭博のディーラーもしている。中村さんは言う。

「もともと『もしも運命が変えられるなら?』ということに興味があったんです。それに関わる占い、賭博、手品に関心を持ったら、すべてに共通するのが“カード”だった」

「僕」はある男の依頼で、彼の未来を占うことになる。占いが外れれば、その男は確実に「僕」を殺す。いにしえから王や為政者が占いを頼り、同時にお抱え占い師の運命を握ってきたように。そんな理不尽な状況に「僕」は否応なく巻き込まれていく。

「カードをめくる行為は“生きること”に似ています。めくるまで次に何が起こるかわからない。人生も同じだなと思った。古来、人間は『先のことさえわかれば、悲劇を避けることが出来たのに』という願いを持ち続けてきた。ある意味不可能な、祈りにも近い思いも表現したかった」

 重厚なテーマとスリリングな展開が魅惑的に絡み合う。特にポーカーのシーンでは、ハラハラする駆け引きに引きずり込まれる。

「執筆のために調べたら自分でもハマってしまいまして(笑)。でも僕は賭博という行為ではなく、ポーカーというゲームが好きなようです。相手の心を読み、しれっと罠を仕掛けるようなところがいい」

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