虚像であるマクリディに対し、映画に出てくるスリランカの工場で働く人々はリアル。ミコノス島の海岸にたどり着いたシリア難民たちも、実際の人たちだ。ロケを敢行して現実の世界を取り入れた理由を、ウィンターボトム監督はこう話す。

「貧富の世界が衝突する様を描くにあたり、主軸となるのが贅を尽くしたミコノス島で滑稽なことが起こる誕生パーティーです。それと実際の工場を対比させ、映画を通してもつなげたかった。だから二つの世界が異なれば異なるほど良かったのです」

■強欲は引き継がれる

 金持ちの欲望に限りはない。父マクリディを良く思っていなかった息子が父の築いた帝国を引き継ぐラストシーン。

「世界の知る最大の帝国より2サイズ大きなものになる。ライバルはたたき潰す」

 と言い放つ。強欲も引き継がれるのだ。監督は言う。

「今の世の中、億万長者の子どもなら、どんなおバカさんでも能力がなかったとしても金持ちになれる。80年代くらいまでは親から引き継ぐものが、その人の富や人生にあまり関係なかったと思いますが、今は親が持っているものが自分という人間を定義づけてしまう。コロナもあってますます親から何を受け継げるかが大事になっている。世界が後退してしまっているのでは。映画ではそれをすごく誇張して描いていますが、僕はそこに真実があると思うんです」

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2021年6月21日号