“笑いの総合商社”と呼ばれる吉本興業の高校だけに、集まってきた生徒たちは実に個性的だ。漫才師を目指す人、自作のラップをネットで配信している人、吉本新喜劇に入りたい人、アイドルを目指す人ら、自分なりのビジョンを持った生徒が多いという。

 長年にわたりエンタメの世界を志す若者たちを見てきた坂内さんの目に、今の若者はどう映っているのか。

「誰でも発信者になれる時代だから、夢への積極性や具体性は一昔前とは全然違うなと感じます。中には目を見張るほどの才能を持つ人もいる。そういう子は個人でどんどん発信していくんでしょうけど、僕らが一番気にしているのは表現の発露の仕方なんです。SNSでは人を非難しているだけとか、きわどいもののほうが注目されやすいところがありますが、果たしてみんなを笑顔にすることにつながるのか、と。それは110年続いている吉本興業の根底にある考え方でもあります。吉本興業高等学院ではYouTubeのプロフェッショナルであるUUUMさんと提携して、コンプライアンスを守りながらいかに強いコンテンツをつくるかを学ぶことができます」

 エンタメの主戦場は、テレビや舞台といった従来の場から、ネットにシフトしつつある。NHK放送文化研究所が5月20日に発表した国民生活時間調査では、10代、20代の半数がほぼテレビを見ないという実態も明らかになった。こうした状況に、芸能事務所も危機感を抱いているという。

「テレビをはじめ、ラジオ、雑誌などの“表現の出口”となるメディアが大きく変化している。それに対応できないところは危険だと思います。テレビと舞台が今の吉本興業の基幹ではありますが、これまでどおり多種多様なことをやりながら出口の変化にどう対応していくか。そこにはきっと若いセンスが力を発揮してくれると思うんです。吉本興業高等学院は豊かな才能を持った若者と出会う機会としても、大事な場になっていくと考えています」

「芸能事務所×高校教育」という学びの場から巣立った若者たちは、今後の日本のエンタメをどこへ連れていくだろうか。一つ言えるのは、いつの時代も、新たな価値を創造するのは若者であるということだ。(編集部・藤井直樹)

AERA 2021年6月21日号より抜粋