最後に女王を「リリベット」と呼んだのは、夫のフィリップ殿下だった。4月17日の葬儀では、棺の上に花束と手紙が手向けられた。手紙は「愛に満ちた思い出とともに」の言葉に添え、手書きで「リリベット」と読み取れた。「エリザベス」でも「女王」でもない。夫妻の仲の良さが伝わってくると、胸を熱くする国民も少なくなかった。

  リリベットは女王の代名詞であり、祖父母や両親、夫との思い出の詰まった宝物でもある。ほかのロイヤルファミリーにはいっさい使われない。英国民もこれを聖域として、子どもに付けることは遠慮している。その名前をヘンリー王子夫妻が娘に付けたのだ。「無神経にもほどがある」「女王のプライバシーに土足で踏み込んで、失礼極まりない」といった批判がメディアのコメント欄にあふれる。

 ヘンリー王子とメーガンさんは王室離脱後、王室を厳しく批判してきた。3月に出演した米国のテレビ番組では、メーガンさんはいくつものショッキングな発言をした。例えば「アーチー君が生まれる前に、肌の色を探る人種差別的な質問を受けた」「自殺を考えるほどつらい時期があったのに、助けを求めても王室は何もしてくれなかった」といった具合だ。ヘンリー王子からも驚くべき発言があった。父チャールズ皇太子(72)とウィリアム王子は、王室という狭い枠に閉じ込められて気の毒だという一家を侮蔑するような物言いだった。

■王室批判に怒りの声

 王子は番組の司会を務めるオプラ・ウィンフリーさんと動画配信サービスでも共演し、メンタルヘルスについて語り合った。最も衝撃的だったのは、王室内での子育ての失敗に触れたことだ。女王夫妻の子育ての影響がチャールズ皇太子に及び、皇太子からは「自分が受けた子育てをお前たちも受けるのだ」と言われた。次の世代に受け継がれる負の連鎖を断ち切ろうと、王室を出たと話したのだった。

 次から次へと王室批判を繰り広げながら、王室トップである女王のニックネームを娘に付ける矛盾に、英国の人たちからは怒りの声がやまない。

(ジャーナリスト・多賀幹子)

AERA 2021年6月21日号より抜粋

著者プロフィールを見る
多賀幹子

多賀幹子

お茶の水女子大学文教育学部卒業。東京都生まれ。企業広報誌の編集長を経てジャーナリストに。女性、教育、王室などをテーマに取材。執筆活動のほか、テレビ出演、講演活動などを行う。著書に『英国女王が伝授する70歳からの品格』『親たちの暴走』など

多賀幹子の記事一覧はこちら