バーチャルオフィスに出勤したアバターたち。ウェブカメラでとらえた相手の表情がよく分かり、雑談も弾む(スペースラボ提供)
バーチャルオフィスに出勤したアバターたち。ウェブカメラでとらえた相手の表情がよく分かり、雑談も弾む(スペースラボ提供)

 テレワークを導入したもののコミュニケーション不足に悩む職場は多い。雑談に注目した仮想オフィスがあるというので、さっそく訪問してみると──。AERA 2021年6月21日号から。

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「リモートでも雑談しやすい環境を徹底的に追求しました」

 こう話すのは、東京・渋谷にオフィスを構える「スペースラボ」の柴原誉幸社長(42)。国内最大規模のバーチャルデザイナーを抱え、CGの制作では知られた存在だ。「世界初」という顔が見えるバーチャルオフィスを開発したといい、さっそく体験させてもらった。

 そのオフィスはネット空間の中にある。まずはブラウザーで専用サイトにアクセス。IDとパスワードを入力してログインすると出勤完了だ。10秒足らずでソファが並ぶエントランスにたどり着いた。受け付けカウンターの近くには柴原さんら社員3人の顔が浮かぶ。ウェブカメラで自分の顔を投影した「アバター」(分身)だという。

■歩く感覚で同僚に接近

 画期的なのはここから。記者もアバターとしてこの空間にいるのだが、歩かなければ他のアバターには近づけない。マウスで進む方向を定め、カーソルキーをクリック。ほんの「数歩」の感覚で3人の前に立つことができた。近づくにつれ、3人の会話も耳に入ってくる。

「こんにちは」。3人から一斉に笑顔を向けられると、バーチャル空間にいることを忘れ、こちらも自然と笑顔になった。まさにオフィスの臨場感だ。アバターどうしの会話がブラウザー上でできるこのコミュニケーションシステム「XD SPACE」は、特許申請中だという。

「互いの顔を確かめ合いながら実際に対面している感覚でコミュニケーションを図れるのは、大きなメリットだと考えています」(柴原さん)

 バーチャル空間でアバターはよく使われており、顔写真やイラストで個人を識別することが多い。それだと相手の表情がわからず、取り込み中なのかどうかも判別できない。だが「XD SPACE」を使えば、他の社員の存在や状況、表情の変化を刻々感じ取れるため声もかけやすくなるという。リモートワークはとかく孤独になりがちだ。バーチャル空間とはいえ、雑談が増えればそうした不安も減り、ビジネスのアイデアやヒントにもつながりそうだ。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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