「まさに一定方向を示したときの日本の国民の皆さんの能力の高さ、こうしたものを私自身、今、誇りに感じています」

 しかし、菅首相が指摘した「昨日」にあたる8日の接種回数は、首相官邸の発表によると、医療従事者と高齢者の合計で「約73万回(10日時点)」にとどまる。党首討論後の記者会見で、この数字の誤差を問われると「毎日、過去の(報告分)が上がってくるからどこで100万回というのかは分からない」と弁明。会見で同じ質問をされた加藤勝信官房長官も「接種記録を後日まとめて入力する自治体もある」と認め、必ずしも菅首相の「1日100万回」という表現が正確ではないとした。

■思い出ポロポロ語る

 45分という限られた時間の中で、菅首相が枝野氏の質問とは直接関係ない持論を延々と述べて顰蹙を買った場面があった。それは、このコロナの感染状況下で「本当に国民の健康と命を守ることができるか」という国民の最大の関心事に関するやりとりの中だった。

 菅首相は「私自身、57年前の東京オリンピック大会、高校生でしたけれども、いまだに鮮明に記憶しています」と前置きをした上で、
「東洋の魔女」「オランダの(柔道の選手の)へーシンク選手」「マラソンのアベベ選手」などを引き合いに出して、「あの瞬間というのは私はずっと忘れることができなかったんです。そうしたことを子どもたちにもやはり見てほしい」と語ったのだ。会場からは失笑が漏れた。

 この場面を自民党のベテラン議員の一人は「思い出ポロポロ」と揶揄し、痛烈にこう皮肉った。

「時間稼ぎとしては有効かもしれないが、この場面で過去の栄光の思い出に浸るのは、年寄りの悪いクセだ。アベベ選手と言ってピンとくるのは菅総理よりも上の世代でしかない」

 この直後、枝野氏が「そんな過去の思い出を語っている場合か。もし、五輪開催期間に選手村でクラスターが発生するなどし、更なる深刻な事態に陥ったならば、その時点であなたは辞任する気があるのか。総理の首をかけて、安心、安全の五輪を実現できるか」などと凄めば、冗長な空気を一変するチャンスだったかもしれない。

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総裁続投の意思を表明