そう考えた響子さんは政府・与党などに対して「厳罰化」を求める要請を続けている。だが、厳罰化は政治家などが自分への批判を封じるために悪用しかねないなど、「言論の自由」を重視する立場からの慎重論も根強く、法制化の見通しはまったく立っていない。

■リアリティー番組の変化

 響子さんは昨年7月、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会に娘の死は番組の“過剰な演出”がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして人権侵害を申し立てた。委員会は審理を進めて今年3月に裁判であれば判決に相当する委員会決定を出した。フジテレビによる人権侵害については、花さんへのケアが行われていたとして「認められない」とする一方で、配慮に欠けていた点はあるとして「放送倫理上の問題あり」という結論になった。

 フジテレビも事件後に出演者やスタッフへのSNSでの誹謗中傷を監視する専門部署を新設するなどの新たな対応を始めている。これまで何をどう配慮すべきか原則や基準などがなかったといえるリアリティー番組の制作において、テレビ局は出演者の保護などにいっそう配慮するようになった現状がある。

■「倫理」遵守機関をつくる可能性

 フジテレビが制作した「テラスハウス」は、地上波で放送される前にNetflixとFOD(フジテレビの動画サービス)で配信されていた。番組でスタジオのMC を務める人物のYouTubeチャンネルでは、視聴を促がす動画や「未公開動画」というPR動画もネット上に配信されていた。

 テレビは放送と通信との融合が一気に進み、番組が放送前後にネットで配信されることも増えている。テレビ局による映像コンテンツも、放送されることなくネット配信だけされる場合も増えた。

 放送・通信が融合する時代に起きた「テラスハウス」の木村花さんの死。BPOの放送人権委員会は記者会見で、「フジテレビが放送したこと」で初めて審理の対象になったと明かした。

 では、もしテレビ局が制作しても放送せずネット配信に限定される番組はどうなるのか――記者にそう問われた委員会は、「BPOの運営規則上、テレビで放送されないと審理の対象にならない」と明言した。ただし「BPOはNHKと民放が設置した機関なのでそちらの方でお考えいただく」として「BPOという組織が新しい時代にどう対応するかという課題」だと認めた。

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あまり報じられなかった「明言」