――その姿は刀剣男士たちを常に後方から見守る三日月宗近とも重なる。作品ごとに違う顔を見せてくれるが、等身大の鈴木拡樹とはどんな人なのか。

鈴木:マイペースで緩やかな空気感が流れているところは三日月宗近と近いかもしれません。

 でも、僕自身は今も「もっと大人になりたい」とすごく感じています(笑)。今の自分は、10代のころに思っていた大人とは全然違うし、友人も含めて近しい年齢の人には、「大人だなあ」と全員に憧れてしまうぐらい。

 一つだけ自信を持とうと思っているのは、仕事で体を動かしているので、通常の同年代よりは動ける、ということ(笑)。ランニングが趣味なんですが、公演中も終演後に走ってバロメーターにしています。ロングラン公演だからこそ、それが自分のリズムになっていて、趣味にしていてよかったなと思っています。ランニングが厳しくなってくると、焦ると思います(笑)。

■稽古より空間が広がる

鈴木:ただ、昨年、ミュージカル「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」に挑戦して思ったのは、年齢に関係なく、人は挑戦を続ける限り大人としてステップアップしていけるということ。新しい挑戦をするのは怖かったんですが、いざ飛び込んでみるとやりがいも感じましたし、自分の可能性が広がった気がしました。

――ジャンルにとらわれず、多彩なフィールドで演じることに挑戦したいと語るが、原点である舞台演劇へかける思いは熱い。

鈴木:自分自身が舞台を見て衝撃を受けてこの世界に入ったというのもありますし、演劇を広めていくことは役者としての一つの目標だと思ってやっています。一人でも多くの方に舞台の楽しさを体感してもらいたいし、伝えていきたい。演劇は生き物だから、常に循環しないと命の火が消えてしまう。今はこういう時期ですので、ライブ配信などで見ていただくことも大切なことだと思います。

 でも、やはり舞台はお客さんが入って完成するものという思いがあります。お客さんが入ると、稽古の時よりも空間が広がるんです。完成度も格段に上がる。厳しい状況は続きますが、舞台は本当に楽しい、すばらしいものです。その生の魅力を伝えられるよう、今後も精一杯努めていきたいです。

(ライター・大道絵里子)

AERA 2021年5月31日号