シオリーヌ:自分の人生を生きるためにはベースとなる知識がないと難しい。私が助産師の資格をとって新卒で総合病院の産婦人科に勤務していたとき、多くの女性が、いざ妊娠とか出産などライフイベントが起こって初めて、「私、自分の体のこと何も知らないって気づいた」って言うんです。産後の避妊について説明したときも、「避妊の方法を習ったのは初めて」というリアクションもありました。

蜷川:妊娠や出産に関してはSNSに幸せな瞬間が満ちあふれ、ポジティブなメッセージばかり。私が1人目を産んだ頃は今以上に母親は聖なるものを求められ、今も無痛分娩(ぶんべん)はダメみたいな雰囲気がある。私は無痛の予定が、おなかの赤ちゃんが横向きだったので帝王切開に。帝王切開も楽だと見られますよね。

シオリーヌ:帝王切開も痛いですから。

蜷川:ネットフリックスで「FOLLOWERS」というドラマを作ったとき、主人公の出産シーンを帝王切開にしたんです。これまでは頑張っていきむというシーンが多かったけど、意識的に。帝王切開が出てくるドラマってたぶんないと思います。

シオリーヌ:特別な事情もなく、自然に帝王切開が描かれるってすごく重要です。日本の映像作品はマジョリティーを描くことが多いし、性教育の絵本も経腟(けいちつ)分娩が多いです。最近日本でも翻訳出版された絵本『ようこそ!あかちゃん』は、経腟分娩も帝王切開も並列で出てきています。そういう作品が増えていくといいですね。

■あなたが決めていい

蜷川:やっぱり、作り手側に意識がないと、なかなかそういう発想にならない。疑問や怒りを持っていないとね。今、空気を読みすぎる弊害があると感じています。人と違うことがタブーになっちゃっているというか。

シオリーヌ:今の日本だと確かに自分を好きでいることがタブーな風潮、ありますよね。性教育でも自分の体は自分のものなんだってすごく当たり前のことを言っているんですけど、そんな認識を持ちづらい。女性のライフプランでも、結婚しないのか、いつ子どもを持つのか、2人目はいつとか、自分の人生に誰かのジャッジを加えられ、みんなから批判されない選択をしなければとプレッシャーを感じている人が多いように思います。あなたのことはあなたが決めていいと伝えたい。

蜷川:それめちゃくちゃ同意します。私もそれをテーマに映画を作っていて、1作目の「さくらん」という吉原遊郭を舞台にした映画でも、コピーが「てめぇの人生、てめぇで咲かす」だったんです。違うからこそ世界は面白いというメッセージを伝えていきたいと思っています。

(構成/編集部・深澤友紀)

AERA 2021年5月31日号