ただし、国内でインド株によるクラスターも起きているシンガポール政府は、5月19日から小学校から短大までのすべての学校の授業をオンラインに変更した。学校は28日からはそのまま当初の予定通り夏休みに入る。この対策について、オン・イエクン保健相は17日の記者会見でこう説明した。

「インド株は、これまでのウイルスよりも子どもが影響を受けやすいように見えると言う専門家もいることを考慮し、念のための予防的な措置だ」

 日本国内の第4波では、従来から重症化しやすかった高齢者だけでなく、より若い世代で重症化する感染者もいると各地で報告が出ている。ただし、20歳未満の死亡は5月19日現在、ゼロだ。前述の日本小児科学会のデータベースによると、半数近い47%の子どもは無症状だった。

「今のところ子どもの感染リスクや重症化リスクは低く、これまでと変化がないと考えていいと思います」

 聖マリアンナ医科大学の勝田友博講師(小児科)はこう話す。

■感染拡大で重症化例も

 ただし、なぜ感染リスクや重症化リスクが低いのかについてはまだ諸説あり、もっと検討が必要だと言う。一つの理由として挙げられているのは、新型コロナウイルスがヒトに感染する際に、まず結合する、ヒトの細胞の表面にあるたんぱく質「ACE2」が、子どもは少ないという点だ。しかし、これで本当に説明できるかどうかはまだわかっていない。

 勝田講師は、変異株がとくに子どもに対してリスクが高くないとしても、このまま感染拡大が続けば、小児の死亡者が出る可能性はあると指摘する。

「新型コロナウイルスに限りませんが、普通の風邪や手足口病を起こすエンテロウイルスなど多くの子どもが軽症で済む感染症でも、何万人という単位で大勢が感染すれば、中には脳症を起こすなど、重症化する子どもが出てきます」

 米疾病対策センターによると、5月19日現在、0~17歳までの295人が新型コロナウイルス感染症で亡くなった。一方、同年代での感染者数は323万4302人だ。約1万1千人に1人が亡くなっている計算になる。

 勝田講師はこう訴える。

「国内の20歳未満の新型コロナウイルス感染者はすでに6万人を超えました。米国と日本では流行状況が違いますので、米国と同じ比率で子どもが亡くなるかどうかはわかりませんが、一定数以上が感染するとどうしても重症化する子どもが出てしまうという感染症の性質を考えれば、日本でも重症化したり、亡くなったりする子どもが出ても理論的には決しておかしくありません。ですから、感染を拡大させないことがとても大切です」

(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

AERA 2021年5月31日号より抜粋