■腹痛と熱で壁かきむしる 一生治らず就職もできない

 膠原(こうげん)病の一種を抱え、難病患者向けの「ゆうこ新聞」を発行する小川ゆう子(49)は、頭木の著書を読み、気づかされた。
「無理して元気に見せる必要なんてない。倒れたままでもいいんだと思えるようになりました」

 いま新型コロナで希望を見いだせない人が増える中、頭木が選び出す言葉に光が当たっている。

 頭木が患った難病、それは潰瘍(かいよう)性大腸炎である。

 安倍晋三が首相を辞する原因にもなった病気だ。東京大学医学部教授、石原聡一郎(53)によれば、大腸に起きた炎症により粘膜が傷つき、ただれたり潰瘍ができたりすることで、腹痛や頻回の下痢、血便などを引き起こすという。原因は不明。推定患者数は国内で約22万人以上とされる指定難病だ。

 異変を感じたのは筑波大学3年生の夏、突然下痢が止まらなくなった。日頃の不摂生が祟ったのだろうと受診しないでいると、3カ月後には血便に見舞われる。腹痛と熱でうなされ、壁をかきむしった。心配した友人に連れられ病院に行ったところ、潰瘍性大腸炎と診断。重症で、即入院となった。担当医の話は衝撃的だった。

「一生治らない。就職も無理です。親御さんに面倒をみてもらうしかありません」

 当時は1980年代半ば、バブル景気の中、明るい将来しか描いていなかった人生が暗転した。

 64年、山口県生まれ。3人きょうだいの末っ子。兄・夏樹(67)によれば、子どもの頃は病気一つしなかったという。サッカーの国体選手だった父親の影響だろう、小学校から中学までサッカーに打ち込んだ。父親は大学時代、小説の同人誌に参加するなど文学に傾倒したが、その部分も似て、物語が大好きだった。子守を任された夏樹は、本で読んだ物語や昔話を、弟に腕枕をしながら語るのが常だった。弘樹は「もっともっと」とせがむので、兄は延々と語りを続けた。

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