■愛あふれる三谷コラム

 おいおい。そう思ってしまうのは、令和の今だから。あの頃は、「ステキ」だった。気恥ずかしいけど、ステキ。ナンシーさんでさえ、それを、「かっちょいいー!」と書いた。

 でも、そんな時代は、長くは続かない。「ニューヨーク恋物語」オンエアの翌89年、三菱地所はニューヨークにあるロックフェラーセンターを約8億5千万ドルで買収した。だが、6年後には大半を手放し、日本はそこから20年とも30年とも言われる月日を失っていく。

 今、しみじみと思うのは、田村さんは絵空事を現実と思わせてくれる役者だったということ。そもそもドラマは絵空事だ。でも田村さんがいたから、リアルになった。それが、田村さんという役者だった。バブルをリアルと思っていた日々、ブラウン管には田村さんがいた。

「アンリアルな外見だからこそ引き立つリアルな感情表現」。田村さんをそう書いたのは、三谷幸喜さんだ。訃報を受けての連載コラム(朝日新聞夕刊5月20日付)で、愛があふれていた。

 三谷さん脚本、田村さん主演の「古畑任三郎」のスタートは94年。回を追うごとに人気になり、断続的に2006年まで続いた。終了後、徐々に田村さんをテレビで見る機会が減っていく。18年放送の「眠狂四郎 The Final」(フジテレビ)の試写を見て、自ら引退を決めたという報道もあった。

 5月20、21日、フジテレビは「古畑任三郎ファイナル」を再放送した。三谷さんはコラムにこうも書いていた。

「一見、型芝居のようでいて、心で演技をされる方でした」

(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2021年5月31日号

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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