非接触のサービスに共通するのは人と人、人とモノとの接点を最小限に抑えながら、利便性と共にいかに利用者の安心感を高めるかに知恵を絞っている点。それを支えるのが、ITだ。「タッチレス」に必要なセンサー技術は、日本が高い競争力を持ち、世界のセンサー市場でのシェアは約5割に上るという。

 一方、<アナログすぎ><もはや斬新>などとSNSで話題の非接触の店が3月、埼玉県朝霞市にオープンした。24時間、無人で餃子を売る販売所だ。

「卸業をしていますが、コロナ禍で商品を卸していた店が軒並み営業自粛や休業になり打撃を受けました。違う販売方法を模索し、考えました」

 と、この「古丹製麺 餃子(ギョーザ)無人販売」を運営する「古丹」(埼玉県和光市)の3代目社長・増谷和紀さん。

■ご利益ありそうな会計

 古丹は1978年創業の中華麺製造卸の会社で、麺や餃子などを埼玉県中心に卸してきた。だが、コロナ禍で昨年4月の売り上げは前年比で半減。新たな販路として考えたのが、無人の餃子店だった。

 一歩店に入ると、店員の姿はない。てっきり自動販売機が置かれているのかと思いきや、商品が入った冷凍ケースが置かれ、利用方法を説明する声がエンドレスで流れているだけ。先に紹介した無人決済コンビニのように、センサー付きカメラが客を追跡しているわけでもない。

 商品は1袋36個入りの三元豚餃子と、シューマイなどがセットになって入った3種セットのみ。いずれも1千円で、自由に商品をピックアップできる。

 驚きなのが会計方法だ。壁際に賽銭(さいせん)箱の形をした料金箱が置かれていて、「料金投入口」に代金を入れるまさかの「お賽銭スタイル」。当然お釣りは出ないので千円札を用意しておかなければいけない。ご利益すらありそうだが、なぜ賽銭箱?

「製麺の箱です。うちが製麺所というのもアピールしたい思いも込めました」

 と増谷さん。万引きや賽銭泥棒が心配になるが、防犯カメラで24時間監視し、人間の良心を信じているので被害はほぼないという。

 オープンから約2カ月。国産肉と野菜、埼玉県産小麦粉を使った餃子やシューマイの人気は上々。4月に東京都練馬区に2店舗目をオープンさせ、年内には埼玉を中心に30店舗近くまで増やしたいと意欲を燃やす。

 ウィズコロナの時代。次はどんな非接触が登場するのか。「触れない生活」も、意外と楽しい。(編集部・野村昌二)

AERA 2021年5月24日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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