千葉市の「ぶりんぐあっぷ ちば子ども発達センター」施設長の小山恵美子さんは、4年前からぺあすくを実践したところ、療育の効果が表れていた子どもが通う幼稚園から、別の子の支援を依頼された。園庭を裸で走り回ってしまう、友達を叩いてしまうなど対応が困難な子どもが通っていて、保護者自身がお手上げ状態だった。

 そこで、子どもへの支援と同時に保護者に対して褒め言葉の回数を増やす短いトレーニングを実施。すると、園側も驚くほど、保護者の言葉かけがポジティブなものに変わる様子が園においても認められた。療育結果を数値で可視化し、園とも共有した。その子のいい反応を継続的にカウントすると、保護者や指導者のポジティブな言葉かけが増えるほど、子どもの反応のスコアも上がることが確認された。その後、入学予定の小学校から依頼が入り、データを元に効果的な関わりや環境整備の仕方を伝えた。今春小学1年になったその子は、普通学級に元気に通えているという。

 発達障害の子どもの気になる行動だけ撮影し、動画をクラウド上に記録するアプリも生まれた。新潟県内の療育施設、大学、企業が共同開発したものだ。

 子どもの気になる行動があれば、その瞬間に先生がポケットに入れた専用のボタンを押す。すると、前後40秒間の動画がクラウド上にアップされる。開発に関わる長澤正樹・新潟大大学院教授(特別支援教育)は言う。

「子どもが問題行動を起こしているように見えても、先生の指示がわかりにくいなど、関わる側の課題が見つかることもあります。エビデンスに基づく支援の実践には、思い込みではない、事実の把握が必須です」

 アプリの利点は、子どもの家庭、通う施設、療育の専門機関などがあまり時間をかけずに、「互いの顔が見える関係性」の中で対応を話し合えることだ。

「この世に一人しかいない『その子』のことをみんなで考えるということ。それは、どんなにテクノロジーが進んでも必要なことです」(長澤教授)

(ノンフィクションライター 古川雅子)

AERA 2021年5月24日号